第24話

 駅前のファストフード店は少し混んできていた。

 壁沿いのテーブルが空いてたからカバンを置いた。


「俺買ってくるから、空座って待ってて。何がいい?」

「えっと、じゃあ…」

 壁に貼ってあるメニュー表を見る。お腹は空いてるけど、晩ご飯前だし。

「Sサイズの白ぶどうジュース…」

「OK」


「あ」

 お金、渡す前にりっくん行っちゃった。

 とりあえずテーブルにコインを出しておく。


 りっくん、後ろ姿も格好いい。肩幅が広くて、背中ががっしりしてる。

 二人掛けのテーブルの、向かいの席にりっくんのバックパック。

 付き合って…るんだ、僕、りっくんと…。

 顔が勝手に笑っちゃうから、テーブルに肘を突いて両手で鼻から下を覆った。


 ドキドキ ドキドキ

 りっくんといると体温上がっちゃう


 少しするとトレイを持ったりっくんが戻ってきた。周りにいた女の子たちがりっくんを見てる。

「お待たせー。これ空のね。あ、ストロー、プラに替えてもらうの忘れた。俺いつもストロー使わねーから」

「ううん、大丈夫。そのまま飲めばいいし。あ、りっくんお金」

「いいよ、これぐらい」

 テーブルの上のコインをりっくんの方に指で滑らせたら、りっくんの大きな手が僕の手に重なった。


 りっくんの手、おっきい…。


「でも…」

「いいからいいから。な?」

 長い指が、僕の手の甲をとんとん、と優しく撫でた。僕を覗き込んでくる目が熱を帯びている。

「…うん」

 僕がそう返事をしたら、りっくんはうん、うんて頷いた。


「さっきさ、授業頭入んなかったの、俺のせいかって聞いたら、空、違うって言ったじゃん。あれ、ちょっとザンネンって一瞬思った」

 りっくんが目を伏せて言った。

「え、あ、あのっ、あれは、授業聞いてないのはりっくんのこと考えてたからだけど、でもそれはりっくんのせいじゃなくて、僕が…、僕のせい、だから…」


 りっくんにそんな風に受け取られてるとは思ってなかった。

 どうしようって思っていると、りっくんが目を上げて僕を見た。

「うん。そういうロジックなんだろうなって、ハンバーガー待ってる間に思った」

 そう言ってりっくんが笑った。

「なんか、そういう他人ひとのせいにしない感じ、いいよな。ますます空を好きになる」


 微笑みながらそんなことを言われたら、どうしたらいいか分からなくなってしまう。

 りっくんが僕の前に置いてくれたジュースのカップの蓋に指をかけた。


「あ、ポテト食っていいよ。腹減ってるだろ?それとさ…」

 僕が取りやすい方向に、ポテトを回しながらりっくんが言う。

「…あ、うん。ありがとう。…それと?」

 カップの蓋が案外開きにくくて、あれ?あれ?ってなってたら、りっくんが開けてくれた。


「家庭教師、してやろっか?まあ俺、そんなすげぇ成績良かったわけじゃねぇけど。つか…」

 言いながらハンバーガーにぱくりとかぶりついたりっくんが、ちらりと僕を流し見る。

 それだけで、ドキドキしてしまう。

「それを、会う口実にしたいだけだけどな。ほんとのとこ」

 にっと笑ったりっくんが、格好よすぎてくらくらする。


 ほんとに僕はなんで昨日まで、りっくんに恋をしてるって気付かなかったんだろう。

 同性を恋愛と繋ぎ合わせられない先入観。

 でも、気付いてたらもっともっとしんどかっただろうから、これで良かった、かな。


「りっくんがいいなら…」

「じゃ、決まりな。ほらポテト食いな?キライじゃないよな?」

「うん、好き」

 僕の返事に、そっかそっかと頷いたりっくんが、ポテトを摘んで僕の方に向けた。

 え、これって…


「はい、あーん」


 うわ、

 恥ずかし、でも…。


 ドキドキしながら口を開けたら、りっくんがくすって笑いながらポテトを僕の口に差し込んだ。唇にスッと触れたポテトに付いてる塩の粒の感触まで分かった。

 あれ?ここのポテトこんなに美味しかったっけ?

 

 りっくんが口の動きだけで「かわいー」って、たぶん言った。

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