夕方報道番組【マークデイ】内コーナー【王都再発見】第128回放送分

白夏緑自

【王都再発見】第128回

 テレビの前の皆さん、こんにちは。今日の【王都再発見】。お邪魔するのは長年本好きの街【梟通セイジ・ストリート】で親しまれている本屋さん【懐古堂ノスタルジア】です。早速店主の方にお話をお伺いしましょう。こんにちは~。


「こんにちは。店主のクワバです」

 よろしくお願いします~。早速ですが、【懐古堂】さんは歴史ある本屋さんだとお伺いしています。いつからこの街でお店を開かれているのでしょうか?


「アズマール朝12年創業です。なので、528年やらせていただいております」

 現王朝開始直後から! 大変な時期もあったかと存じますが、ずっとこの土地で?


「ええ、そうですね。祖父からは、祖父の父が開いた店ですが、大変だったとよく話をしていました。戦火に巻き込まれそうになったときは持てるだけの本を持って、逃げだしたこともあったとか」

 なるほど~。混乱の時代も生き抜いた力強い本屋さんなんですね~。


「ははは、そうですね。お客様のおかげでもございます」

 やはり、長年続けていくには理由があるかと思いますが、このお店の強みや特徴などを教えてください。


「そうですね、歴史書をメインに扱いたくて懐古堂なんて名前を付けていたそうですが……。こちらです」

 ここは、魔導書のコーナーですね?


「はい、268年からの三位界間戦争時、魔導書の需要が一気に高まりまして。その頃から、懐古堂では魔導書の取り扱いに力を入れています。魔導学校が近いことも理由ですね」

 最近の人気を教えてください。


「やはり、ダグ・ソートス先生の無詠唱シリーズでしょうか。感染症流行に伴い、口を開かず、発声しない魔法の発動方法には一気に注目が集まりましたから。学生さん以外のお客様もよく購入されます。」

 おお、私もよく馬車駅などで目にします。売り切れ続出と聞いておりましたが、懐古堂さんは充実していますね。


「他店舗様ですと、やはり入荷が難しいと伺っています。うちは長年培ってきたネットワークがありますので、なんとか皆さんにお届けできるのではないかと」

 しかし、今日の放送を観てお客様が殺到してしまいそうです。


「たしかに、仰る通りだ。アルバイトさんを雇わないといけませんね」

 他にも……昔のレアものなんてものも……。あ、これはなんでしょうか?


「そちらは、ミリアム・バーディの【魂絶叫ソウル・スクリーム】。その初版ですね」

 ミリアム・バーディ⁉ 今から200年も前の魔導士ですよね? あのミリアム賞の。そんな人の初版本があるなんて……。しかも、新品ですか?


「ええ、うちは表に出している以外にも在庫がありますので。時々、スペースが確保出来たらこうやってこっそり本棚に入れているんですよ」

 でも、そんなことしてたらすぐにマニアな方が見つけてしまいそうですが……。


「いやあ、常連さんなんかは宝探しの感覚で通っていただいております。この店が頼まれても特別に売ったりしないことをわかっていてくださっているので」

 お店とお客様、両方に信頼があるのですね~。それでは最後に……って、あれ、この魔導書は……。


「どうかしましたか?」

 いえ、でも、すごく気になっちゃって……。なんでしょう、引きこもれるような……。手が勝手に……、本が私を引き連れていくような……。

「だ、大丈夫ですか? ……あ、その魔導書は! どうしてこんなところに⁉」



『おいおい、どうしたどうした……? 生放送だぞー……』

『プロデューサー大変です!PSMMS投稿型魔術士用ソーシャルメディアサービスが大荒れしてます!』

『は? なぜだ⁉』

『レポーターが手に取った魔導書、100年前に焚書対象じゃないかって!』

『やべえやべえ! それがマジなら下手したら記憶操作措置もんだ! 画面、スタジオに戻せ!』



「えー、通信状況に不具合が発生しましたので、コーナーを切り上げさせていただきます。大変、失礼致しました」

「失礼致しました」

「はいっ、それでは次のコーナーへ参りましょう。明日のお天気です。マーガレットさ~ん!」

「は~い!みなさーん、私は今どこにいると思いますか~?」

「ええ~、どこでしょう──」



 後日、下町のとある本屋に業務停止命令及び、店舗と倉庫、店主の自宅に家宅捜索が行われたと小さく報じられた。

 また、その際に見つかった禁書の処遇について、処分を検討する王都側と貴重な資料だとして保護を訴える魔導学会側で論争が起き、一部の界隈は動向を見守った。


 事の発端となったレポーターは急病のため、療養中……と番組内で説明された。もちろん、この説明を信じる者は世の中にわずかしかおらず、魔導書の呪いに支配され解呪のために監禁中であるとか、あまりにも危険なため既に処刑されたなど数々の噂が飛び交ったが、誰も真実を知らぬまま、やがて人々の興味は有名俳優の不倫問題へ移ろいでいったのである。


 【王都再発見】はほとぼりが冷めて約半年後、新しいレポーターを迎えしれっと復活した。誰も、過去のハプニングなど無かったように。元冒険者が営む食堂を紹介する、記念すべき1回目を初めて見る内容だと疑わずに。

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