転生乙女は古き神々に溺愛される ~三千年後に転生しましたが、忘れられていないどころか寵愛が加速しています~

空月

◆序


 彼女は走っていた。逃げるために――そして、人として死ぬために。

 けれど、どこへ逃げればいいのかも、逃げる先があるのかすらわからなかった。ただただ、逃げ出さねばならないと、その思いだけを胸に走っていた。


『おまえ、おれの妻になれ』


 彼女がそれに従うことが当たり前のように告げられた言葉、彼女が抗うことなど微塵も考えていない視線。

 それを思い返すたびに、逃げ出さねばならないという思いを強くして、懸命に走り続ける。

 息が切れる。苦しさで頭がぼうっとする。足も満足に動かなくなってきた。

 もはや歩いているのと大差ない速さになったころ、彼女の前に忽然と、人影が現れた。


「――必死だね。ねえ、助けてあげようか」


 美しい銀の髪を揺らして、とろりとした金の目を細めて、そのは傲慢に気まぐれに手を差し伸べた。

 そこに慈悲はなかった。同情も。ただただ、事態を面白がっていることだけがわかる笑みを浮かべたそのに、彼女は一瞬だけ迷って、賭けた。

 己の、未来を。


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