ひぞうすとっく【BL】『高嶺の大樹』第4話 愛人契約?(sideラファエロ)

 お前、なんてことしてくれたんだよ!

 打診とか根回しとか、普通相談くらいあるだろ?

 勝手に余所で話を進めるな!報連相大事!!


 思う存分不満をぶちまけてやろうと思っていたが、本気でわからない様子のネロを見て諦めた。


 そうだよなぁ。貴族と平民では、常識すら違う。平民の世界は絶対的権威者にあらがえないっていう意味で理不尽だけど、貴族界ほど腐りきっていない。もっとシンプルなのだ。

 現状を噛み砕いて説明をしてもなお全く理解できないんだから、コイツに変な企みがあった訳ではないのだろう。

 うちの平民団員は、第三師団が好きなのだ。俺がそう仕向けてきたのだから。


 態度だけはデカくて仕事をしないはした貴族なんかより、仕事の出来る平民の方がいいに決まってる。

 ただ貴族の家の生まれだってだけで、仕事の出来る平民をゴミクズ扱いするような上司なんて害悪でしかないのだが、それがまかり通るのがこの国なのだ。誰かが不満の声を上げたところで、急速な民主主義は人権を得ない。革命が為せるほど、国力も衰えていない。


 じゃ、どうするかって?

 身分が高いことが全てなら、身分で抑え込むまでじゃないか。第三師団どころか第一師団ですら、俺と同等の権威を誇る家の出自である相手はいないのだから。


 平民と一緒の扱いを受けるのが不服?ああ、抗議すればいいだろう?デルカ家に物申せるものならばな。ああ、逆らったなら制裁を受けても仕方ないよな?デルカ家を軽んじたんだから。

 全くもって良い武器を持って生まれついたものだ。虎の威を借る?実家に権威があるなら使わない方が持ち腐れなんだよ。


 おかげで実力のない口だけの貴族連中は追い出せたし、賛同を得た一部の実力主義者である末端貴族たちは頑張ってくれてるし、平民や一代騎士爵の団員たちは快く切磋琢磨しながら働いてくれている。まことに労働環境がホワイトになったものだ。

 ………大多数から、崇拝というか、宗教じみた忠誠を感じるのも確かなんだけど。ま、害はない。


 いや、あったわ。現在進行形。


 でも、デカい図体をして狼狽うろたえているネロの姿を見ていると、何だかもう仕方ねぇな、って気がしてきた。

 皇帝陛下の勅命なのだから、今更どうしようもない。それに、その勅命が出る前には、デルカ家に打診があったはずなのだ。つまりこれは、俺が今まで権威を乱用していた生家からの命令でもある。


 どうせ初めての事ではない。

 成人としてデビューする前から、色々なオッサンやマダムたちに売られてきた。そのうち交渉の術を身につけて、一方的に好きにされるような愛人関係は結ばずに利益を得る事に長けてきた。それは逆に言えば、最初は言われるがままだったってことだ。

 高嶺の花ともてはやされて、持ち上げられてきたわけだけど。

 あの場所で高嶺にいられたことなんて、ほんの一握りだ。本当に高位の相手達にとっては、たかだか高家の次男坊にすぎない。俺が媚びへつらうべき相手はみんな俺より高位で、俺なぞただの格下で、従えるのがファッションなのだ。


 それを思えば、条件はいいんじゃねぇ?

 何しろ相手は、人の足元を見る事しか考えていない、俺を見下してるお貴族様ではないし。

 おごらず、実直で、手の内で操れそうな単純な人間で。以前の愛人たちよりもずっとマシな、まともな人間だ。

 帝国にとっては、忠臣たるデルカ家の、それも騎士として国に忠誠を誓っている俺が、ネロを捕まえておくこと、というか、対立勢力に渡さないことが益になる訳だし。

 デルカ家にとっては、剣聖の正式な後見になることは利になる訳だし。

 ネロにとっては、第三師団に所属し続けたいって希望が叶う訳だし。

 ある程度Win-Winと言えなくもないかもしれない。


 コイツは自分の得た名誉のすごさなんて微塵もわかっていないから、このままではきっとどこかで搾取されるんだろうなってのもある。

 デルカ家ならば、ネロの名誉を上手に扱える。デルカ家が後見すれば、ネロは名誉はあっても所詮は一代騎士爵の平民、なんて言われる事もないだろう。

 だったら、思惑とは違ったとしても、ネロにとっても悪い話ではないはずだ。


 理解することすら諦めたようなネロの無駄に整った顔を見て、笑いが零れた。

 逃げられないのならば、存分に利用してやろうじゃねぇか。

 損はさせないから、なぁ?


 理解もしてないくせに思い切りよく頷くネロに、ほくそ笑む。

 さて、俺たちの利益の追求を始めよう。

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