ひぞうすとっく【BL】『高嶺の大樹』第2話 天使と剣聖(sideラファエロ)

「って事らしいんだわ」

「らしいんだわ、じゃねーわ」


 帝国中央軍第三師団。トップの椅子に座るボンクラはヘラヘラと笑いながら笑えない事を言った。

 異例のトップ入団からメキメキと頭角を現し、今や我が師団の英雄になった剣聖ネロ。その剣聖が皇帝に望んだものが俺らしいって?

 少年愛と愛人文化がたしなみとされる、この国の腐りきったお貴族様の政治の上じゃ、ない話ではないだろうけど。こんな勅命が降りてくるって事は、人身御供になって剣聖を繋ぎ止めろって事だろ?マジでクソだな。

 だから、貴族の世界は嫌いなんだ。貴族の銘家に生まれて何不自由なく生きてる俺が言えるこっちゃないけどさぁ。


 この国は、イカれてる。正気の沙汰じゃない。

 そんな風に思うのは、自由平等公平が根付いたどっかの記憶のせいなんだと思うけど。

 歴代皇帝の御前貴族筆頭であるデルカ侯爵家に生まれて、次男ながらに恩恵に与りながら大事大事に育てられてきた。だから、この国の常識だとか、どう振る舞うべきかとかはしっかりと身に染みている。

 ただ、胸糞悪いだけだ。

 一見華々しい貴族の世界に入れば、家をたてるためにオッサンの愛人にされたり、ご夫人のペットになったりとろくでもない裏取引ばかりだった。権力を以て格下を踏みにじるのは奴らのやり方で、それこそが権威だと思ってる奴ばっかり。

 社交界は面倒くさいし気分が悪い。なまじ、この国で最上とされる美少年……小柄な童顔美形に生まれついてしまったから、俺にとっては尚更のこと地獄でしかなかった。幾らで、とか、どれくらいの権力で、とか、面白おかしく鑑賞されて噂のネタにされるんだから、鬼畜の巣窟にしか見えない。

 それから逃れるために、自分の楽園シマを築いているってのに。


 帝都には、皇族を警護する近衛騎士団と、宮殿、帝都を警備する中央騎士団がある。近衛は完全に貴族界だ。出身が問われるし、良い身分に生まれつき、更に実力がある者たちが所属している。大半の貴族の中で嫡子以外が目指す花形だ。中央騎士団よりも格式が高いとされている。

 俺は出生的には近衛を目指すべきだったのだろう。だが、貴族的なやり取りが必須だし、お貴族様の相手もしなければならないし、格式が下の者とつるむことも許されない。そんなクソ面倒くさい場所で生きるのはゴメンだった。


 中央騎士団は、宮殿守護に関わる第一~第三師団、帝都警備に携わる第四~第六師団があって、格式は第一師団から順付けられている。

 第一師団は近衛や大臣との連携、第三師団は第四以下の帝都警護団との連携が任されている。中央騎士団には平民団員が存在するが、実質は第一師団には一代騎士爵位を得た者しかいないし、第二、第三師団の上役は全て貴族だ。


 つまり逆に、第三師団は、貴族が属しても醜聞にならず、ある程度平民に交わることができる地位なのだ。

 ここで、デルカ侯爵家の親戚筋であるペドネ子爵家から、目の前の腕は立つ悪友ボンクラ幼馴染、カルロを団長として擁立。俺は悠々と副団長に収まる、と。これで、俺が快適に過ごせる楽園が誕生した。

 名誉高い訳ではない第三師団では、管理職と言えど貴族が積極的に手上げはしない。自称格式高い奴らなんて、平民を卑しいと近づくのも嫌がったりするくらいだからなぁ。

 これは家と帝国と師団のWin-Winな関係。俺の私欲だとすら勘づかれることはないのだ。


 そんな平和な俺の楽園に、戦神の寵児ちょうじと共にとんでもないお達しが現れるなんて、やっぱ俺、この世界向いてないわ。

 二十二年も生きてれば、もうある程度の諦めはついてんだけど。


「ラフィーがたぶらかすから」

「誰がだよ」

「平民の団員たちにキラキラとギラギラの間の視線浴びせられてんじゃん?」

「知らんわ」

「一昨日助けてあげてた新入り、昨日の一言目はあの女神の名は?だったらしいよ」

「俺の楽園の秩序を守ってんだよ」

「そして巨大宗教が出来上がってるもんね」

「働いてくれんならそれも悪くないんだけどねぇ?」

「ラフィー君、普通に腹黒いからね」


 そう、俺は自分の権威と容姿を盾に、俺に優しい世界を作っているだけなのだ。

 心底こういうの、いらねーんだよ。

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