からのあきばこ【第三倉庫】

ちえ。

『JEM』ばんがい

『JEM』ぐちゃぐちゃ/777練習

 昨日の夕方に舞い込んだ無理難題を片付け、会社から帰宅したのはもう正午に差し掛かる時間だった。

 だから君が上着をぐちゃぐちゃと丸めて放り、玄関先で床に頬擦りして寝ているのを見て、溜息が零れた。


「起きろよ」


 まだ酒が抜けきっていないような赤い顔のジェイミーを揺さぶる。

 安いシャンプー、こいつが吸わない煙草の匂いに、清楚な甘い女の匂いが僅かに混ざって漂った。

「うぅん、あれ、オカエリ由一」


 寝乱れた髪をかきあげ、額をそのまま掌で押さえてジェイミーはのろのろと起き上がった。

 何の悪気もなく、頬についたフローリングの床の痕を丸く歪ませて、くしゃりと笑う姿は、まるで主人の帰りを待ちわびていた忠犬のように嬉しそうにキラキラしている。

 僕はその姿を直視したくなくて、ちらりと視線を向けただけでしわくちゃの上着を手に家の奥へと向かった。


 重みを感じて見てみれば、ポケットの中には電源が切れたスマートフォン。帰れないことを連絡をしようにも、持たせた電話が繋がらないのはいつものことだ。

 苛立たしいと思う反面で、どこかでジェイミーが無事に帰ってきてくれて良かったと感じている。

 だけど自分の気持ちなんて見ないフリをする。疲れ果てた頭で、何も考えたくはなかった。


「由一、怒ってる?」


 追いかけてきたジェイミーが、デカい図体を丸めて伺うように僕を見つめる。


「まさか怒られないと思ってないだろ?」


 不機嫌が零れだした言葉に、ジェイミーは更に肩を縮めた。


 言いたい事ならたくさんある。

 なぜだとか。どうしてだとか。でもそうする意味はないことを知っている。

 どうせ酔って気分が良いところで、同じ気分の相手に流されたのだろう。

 意味がないことに対して腹を立てても仕方がないのだ。

 同じことならば、不快なだけの言い訳を聞きたくない。


 上着を洗濯機に放り込んだ。

 こんなぐちゃぐちゃした思いは、洗い流されてしまえばいいと。

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