第5話
修学旅行のお土産を渡した時、僕は勇気を出して、母に聞いた。
「お母さんって、双子の姉妹がいるの?」
母は黙った。その沈黙が恐ろしかった。暫くして、やっと「いるよ」と答えてくれた。
「ごめんね。隠すつもりは無かったんだけど、家族と仲悪いから。もう連絡とりあってないし」
栄治の母と僕の母が同一人物ではないと分かって、ひとまず安心した。
「加藤栄治っていう子と仲良くしてるんだけど、その子の母親と、お母さんが似てたんだよ。別人とは、思えないくらい」
僕は母の顔を祈るように見つめた。美しい女優のような母の顔を。家族旅行している時も、有名な芸能事務所から、スカウトされたことが何度もある。僕は、僕の顔に自信は無いけど、母の顔には自信をもっていた。小学生の頃、僕を虐めたクラスメイトでさえ、授業参観の時、母に見惚れて、『すげえ美人いる!』って、コソコソ褒めていたから。
「そうなの、じゃあ――」
母は僕から目を逸らした。
「妹が近くに来ているんだね」
「妹?」
母は微笑んで、「会いたくなかったのに」と言う。冷たい声音で、僕はまた不安に突き落とされた。父は僕達の会話に入らず、黙ってテレビを眺めていた。
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