第3話
翌朝、母に起こされなかったせいで、僕は寝坊した。午後の授業中、そろそろと教室に入ると、担任から「まだ春休み気分か?」と叱られた。クラスメイトが笑っている。僕は恥をかきながら、「すいません」と謝り、自分の席についた。
修学旅行のグループを決めている際中だった。男子三人と女子三人の組み合わせだ。僕は栄治に声をかけられて、一緒のグループになったけど、あと一人が決まらない。女子三人とも組めていない。先生が呼びかけたが、誰も立候補しなかった。女子はコソコソと話し合っているけど、手を挙げない。
栄治はいいけど、僕が嫌なのか? 苛々すると、クラスで一番目立つ男子グループのリーダーの黒沢が立候補した。すると、クラスで一番目立つ女子グループのリーダーの鈴木が彼氏の黒沢目当てで、立候補した。鈴木のグループには、佐山もいる。無事にグループ決めは終わったけど、僕は憂鬱になった。いわゆる一軍女子と一軍男子なんて、この世で一番、苦手な生き物だから。
その後、部屋割りも決めたけど、僕のグループに黒沢がいるせいで、派手な男子グループと同じ部屋になった。栄治は何とも思っていないらしいけど、僕はウンザリした。『修学旅行なんて糞くらえ』と、心の中に吐き捨てた。
それから一か月間、僕は平凡すぎる学生生活を送った。栄治と他愛ない会話をよくしたけど、死ぬほど退屈だった。でも、ボッチよりはマシだろう。
修学旅行が始まって、浮ついた気分になれないまま、新幹線に揺られた。京都駅に着いた時、大量の観光客にチラ見されながら、制服姿の生徒達は整列した。僕は恥ずかしかったけど、単独行動する度胸なんて無い。
一日目は奈良の観光で、バスで移動した。法隆寺と東大寺を参拝して、京都に戻り、ホテルにチェックインした。うるさい黒沢のグループと同じ部屋のせいで、僕は休めなかった。いっそのこと、野宿したかった。
入浴時間になって、別のクラスの男子も一緒に、大浴場で体を洗った。その時、黒沢のグループにいる長谷川と向井が、髪の長い栄治をからかった。馬鹿だなあ、と呆れつつ、隣にいる栄治を見たけど、その瞬間、ひッと息が引き攣った。
『……僕のお母さんに似ている?』
咄嗟に「からかうなよ」と声をあげてしまった。長谷川と向井は笑って、「キレんなや!」と言い返しつつ、栄治から離れた。怒ったつもりは無いから、僕は気まずくなった。
「ありがとう」
栄治に感謝されても、清々しくない。でも、改まって、その姿を見ると、『やっぱり、似ている』と感じた。同級生の男子に母を感じた気持ち悪さを拭い去ろうとして、僕は必死に髪も体もゴシゴシ洗った。
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