面接にて
マフユフミ
第1話
はい、長所はひとつの事に打ち込むことができるところだと思います。
学生時代の吹奏楽部での活動で、パートリーダーを任せてもらえるまでに成長できたのも、そういった部分が良い風に働いたのかと思っています。
次に短所ですが、これもまたひとつの事に打ち込む、というよりものめり込んでしまいやすい、というところだと思います。
何かに集中すると、それこそ寝食を忘れるといいますか、他の事に目がいかなくなり視野が狭くなってしまっているというのが私の至らない部分であります。
はい、そうですね。
気持ちの切り替え、という点も含め、今後自分自身を改めていきたいと感じております。
はい。はい、そうです。
やっぱり好きなんでしょうね、打ち込むもの。吹奏楽しかり、パズルしかり。
あ、そうなんです。パズル好きなんです。
全部キレイにはまったときの達成感がたまらないですね。
え、趣味ですか?
まあパズルももちろんそうなんですが。
一番の趣味といえば…立ち読みですね。
はい、そうです。あの立ち読みです。
もともと本屋さんの雰囲気が好きなんです。
たくさんの本が並んでいて、真新しい本たちが読まれるのを今か今かと待っていて。
本屋さんの端から、並んでいる本のタイトルや表紙をじっくり見ていきます。
あとは直感ですね、コレだ!という本を手にとり、ささっとあらすじを確認するんです。
買わないのか?ですか?
もちろん買いますよ。
立ち読みでピンと来たら即買います。
表紙だけで買ってしまう時もありますが、よほどの運命を感じなければなかなか出来ませんし。
基本、なんの下調べもなく本は買えません。
どうしても自分との相性というものがありますし、それは立ち読みという過程がないと計り知れないものなのです。
図書館には行かないのか、ですね。
もちろん行きますよ。たくさんの本との出会いの場ですから。
でも図書館は言わば合コンじゃないですか。
すでに幾人もの他人の手垢のついた本たちとの出会いは、一生を添い遂げる相手を探すには少し抵抗があると言いますか…
本屋さんはお見合いです。
気持ちちょっとおめかしして、緊張感を持って挑む。
あとは若い二人に任せて、なんて言われながら店舗に放出され、ゆっくりじっくり相手の様子を見てまわる。
運命の相手との出会いを見極める、この瞬間がたまらないんです。
そうですね、できるだけ大きめの店舗がいいですね。
小さい本屋さんは、それはそれで魅力ですが、出会いのチャンスを邪魔されがちですし、何より店主の視線が煩わしいですから。
運命を感じたら、さっそくお買い上げです。
もっともっとお相手のことを知るべく、自室に持ち帰りゆっくり読むんです。
立ち読みだけでは分からない?
そうですね、もちろん失敗したなぁと思うこともありますよ。
でもこれも時の運です。
かわいい子と出会い、恋に落ち、ほくほくしていたところに彼女から「いいセミナーがあるから一緒に来てほしい」なんて言われてついていったら三万円ほど持っていかれた、なんて感覚に陥ることもあります。
でも、それも含めて人生なんです。
立ち読みの醍醐味なんです。
三万円をかけてでも、新しい出会いを求めることは、素敵なことでしょう??
あ、はい。はい。
少し語りすぎてしまいましたか。
はい。そうです。
結果は明日に電話で、ですね。
承知いたしました。
今日はありがとうございました。
失礼致します。
結果…不採用。
面接にて マフユフミ @winterday
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