【KAC20231】予測検索【本屋】

五三六P・二四三・渡

第1話

 これは本屋に限らない話だけども、店にある商品検索用のコンピューターで、文字を入力している途中に先に商品を予測して表示してくる機能というのは苦手だ。

 確かに便利ではあるが、文字を入力しているときに予測が一件も出てないと、検索する前から『その単語では出ない』と言われているようなもの。在庫がなくても本が登録されていれば大抵は出るので、予測検索が出ない場合は『誤字がある』『表記揺れ』『理由がわからないがなぜか出ない』等がある。


「うん? 途中で検索結果が出ないことを教えてもらえることが何が悪いんだ? 便利だろう?」


 と思う人もいるかもしれないが、私は検索ボタンを押してからガッカリしたいのだ。

 だから私も今、予測検索が現れないことに不安を抱きながら長い……それはもう長いタイトルを検索機に打ち込んでいる。

 私の書いた本だ。私が膨大な取材を行い、丹精込めて書き上げた傑作を検索している。誤字、表記ゆれ等がないが入念に調べながら、一文字ずつ打ち込んでいる。。

 予測が出ないのであれば、もう出ないとほぼ決まっているが、それでも何かの間違いで出るかもしれない。


 本屋が混んできていて、検索機を使うために後ろに列ができていた。私は首筋に汗をかき、不安になりながらもようやくタイトルを打ち込み終えた。

  しかしなぜ予測検索が出ないのだろうか。もしかしたら私は記憶喪失で、自分の本が世に出たと勘違いしているだけかもしれない。いつの間にか並行世界に移動していて、自分が本を書かなかった世界に移動したのかもしれない。もしかしたら……

 ひたすらにこんな本は存在しないという考えが浮かぶ。


「ええい! ままよ!」


 私は古風な掛け声で、道化を演じながらも検索ボタンを押した。


 ――検索結果は「0件」


 やっぱり! 私は本なんて出していなかったのだ! 私が長ったらしい本なんて書けるはずがなかったのだ! 私は泣いた。慟哭を本屋に響かせそうになったが、周りの視線を感じぐっとこらえた。所詮私は人目を気にして生きている人間なのだ。

 私は肩を落として、出口に向かおうとする。


「あの、すみません」


 振り返ると、列に並んでいた女性が検索機の画面を指さしている。私は画面にかぶりつくように、機械を見つめた。


「こ……これは」


 なぜこんな簡単なことに気が付かなかったのだろうか。灯台下暗し! コロンブスの卵! 傍目八目! 足下の鳥は逃げる!

 私は首を振った。


「著者名のところにタイトルを書いてた……」

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