転生ガチャに失敗しました。
甘栗ののね
1.能力なんてありません
どんな人間にも必ず何かひとつは才能がある、なんてのは嘘だ。
俺は転生者だ。いわゆる異世界転生をした人間だ。
もともとの俺は日本に暮らすただの男だった。何か才能があるわけでも、頭がいいわけでも、運動能力に優れているわけでもない、そんな人間だった。
なんとなく小学校を卒業し、なんとなく中学生になり、高校を卒業し、大学生になり、社会人になった、そんな男だ。
まあ、そんな一般男性にも歴史はある。高校はそれなりに部活動に打ち込んだこともあるし、大学生活も、まあ、悪くなかったような気がする。高校時代に部活動で膝にケガをして大事な三年生を棒に振ったり、就職に失敗してメンタルを病んで数年間ニートをしていたり、それなりにそれなりの人生を送ってきた。
社会復帰しようとアルバイトを始めたこともある。そのバイトも初日でギックリ腰を発症し、そこからひどい腰痛で二年ほど苦しんだこともあった。手術か車いす生活か、という話にもなったが、どうにか回復し、なんとか社会復帰はできた。
俺が死んだのは35歳の時だった。車を運転中に対向車線をはみ出してきた大型トラックと正面衝突し、おそらくそこで死んだのだろう。
そう、死んだのだ。死ななきゃ転生もできない。
前世の、日本での俺はあまりパッとしない人生を送ってきた。結婚もしていなければ、もちろん彼女もいなかった。稼ぎもよかったわけでもなかった。
それでもなんとか生きていた。俺の人生こんなもんかな、と半ば諦めながらもどうにかこうにか生きていた。
別に悪い人生ではなかった。まあ、他人から見れば惨めな生活だったかもしれないが、ご飯が食べれて、自分の部屋で静かに本が読めて、自分の足で立って歩ける。それだけで、俺は満足だった。
そんな俺が死んだ。死んで、異世界で生まれ変わった。
最初は戸惑った。何が起こったのかさっぱりわからなかった。
けれど、時間が経つにつれて理解していった。前世の記憶と意識を持ったまま生まれ変わったようで、生まれたばかりのときからはっきりと周囲のことを理解していた。
理解していた。俺は別の人間になったのだと。
そう、俺は別の人間に生まれ変わったのだ。
生まれ変わった世界は、厳しかった。
その国では能力がすべてだった。俺はその国にある小さな村に生まれた。先祖代々農業を営む、ごくありふれた村人夫婦の長男として生を受けた。
その国では三歳になると『洗礼』を受けることになっていた。村の子供たちが集められ、『鑑定官』と呼ばれる者たちにより子供たちは鑑定される。
俺もその洗礼を受けた。と言ってもやることは簡単だった。
鑑定官と呼ばれる者たちが持ってきた大きな鏡の前に立つだけだ。それで洗礼は終わる。
そして、そこで人生が決まる。
鑑定官の持ってきた大きな鏡。それは鏡に映った人間を鑑定することのできる鏡だった。鏡に映った人間にどんな能力があるのか、才能があるのかをその鏡は教えてくれる。
もちろん俺も鑑定された。
鑑定を受けた子供たちはそれぞれが持つ適性に合わせた教育を受けることとなる。持って生まれたっ才能を伸ばし、能力を開花させるためだ。
それがその国のやり方だった。生まれた時から将来が他人によって決定される、そんな国だ。
そうすることで教育を効率化し高度な人材を量産していく。優秀な人間が増えれば増えるほど国は強くなる。
そして、能力のない者は切り捨てられる。そう、俺のように。
俺には何もなかった。鑑定の結果、何かとびぬけた能力も、特異な才能も持っていないと鑑定された。
無能。俺は生まれて三年目で国からそう判定された。
それでも両親は俺を捨てなかった。しばらくは。
「さあ、あなたは今日から、ここで暮らすのよ」
俺には弟がいた。俺は弟が三歳になった時、捨てられた。
弟には才能があった。両親は喜んでいた。
それだけではない。弟が三歳になった時、母は妊娠していた。つまり新しい弟か妹が生まれる、ということだ。
弟とこれから生まれてくる弟か妹。もしかしたらさらに弟か妹が増えるかもしれない。
邪魔、になったのだろう。何の能力も持たない俺が邪魔になったのだ。
だから、捨てられた。正確には売られたのだろう。
いくらでかは知らない。
「……世知辛いね、まったく」
本当に、世知辛い。
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