第3話

「サンドラ・・・もし君が保護して欲しいと望むなら、私と結婚なんかしなくとも辺境伯として喜んで保護する。サンドラは、辺境伯領の様々な問題を解決してくれた恩人なのだから。心配しなくても、君の安全を保証しよう。」



 アルバートはアレクサンドラを真っ直ぐ見つめて諭すように伝えた。しかし、アレクサンドラの瞳には、みるみる涙が溜まりアルバートは硬直した。




「アルは…お嫌ですか、私と結婚することが。」


「なっ…!違う、君の方が嫌だろうと思ったんだ。十も歳上で、粗暴な野獣と結婚なんて…。」


「嫌ではありませんわ!アルの容姿も、性格も、全て私の理想なのです。」



「・・・は?」


「・・・アル、私がアルと結ばれたくて保護を求めたとしたら、こんな狡い私はやっぱり嫌でしょうか…」



 アルバートはまたしても硬直した。アレクサンドラの話していることは全く信じられない。そう思うのに、今自分の膝の上で必死で思いを伝えるアレクサンドラが嘘を言っているとは思えない。



「そんな、だって私たちは・・・」


「はい、仕事以外で言葉を交わしたことはありません。ですが、私はずっとアルだけを見ていました。王宮で行われる騎士団合同練習の時、強く凛々しいアルしか見えませんでした。何度か伺った辺境伯領での視察でも、アルは領民を思い、守っていることが伝わりました。」


「だが、サンドラには王太子が・・・」


「王太子とは政略結婚ですし、六年前に我が公爵家に来たマーガレットに惹かれていたことは、ずっと前から分かっていました。・・・保護して欲しいと言えば、正義感の強いアルが助けてくれるのを分かっていて、筆を取ったのです。」


 アルバートは自分に都合の良い夢を見ているようにしか思えなかった。恐ろしい容貌と大きく傷だらけの体、荒くれ者ばかりの辺境の長、女性の扱い一つ出来ず社交嫌い・・・このような理由から縁談は断られてばかりだ。そんな自分が、絶世の美女と言われた優秀な王太子妃候補から好かれているだと・・・?

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