ご来店
「お待たせしました!本日は文化祭!皆さん、思う存分楽しんでいっきましょー!」
生徒会長である伊豆奈が、高らかにそう宣言すると、生徒一同は大声を上げ祭りを始めた。
いよいよ文化祭。1か月の準備期間を経て、ついに文化祭がスタートした。
今年の文化祭の出し物はかなりクオリティが高いというので、僕らのクラスも負けないようにと一層気合が入った。
クラスに戻り、まず先にクラスの出し物が始まる。
朝の9時から3時までの長い時間をクラスの屋台で過ごす。そのため、前半後半に分けて回る組と屋台を仕切る組で分けたりしている。
僕らのクラスはというと、午前の前後半。午後の前後半。クラスメイトの半分をさらに分けて少しでも都合を合わせやすく調整されていた。僕は午前と前半組。早速任されていた調理の為に仕込みを行っていた。
「にしても、あのギャルの子たち、災難だったねぇ~」
「文化祭当日に風邪ひいて休みって、かわいそうに。私にとっては願ったりかなったりだけどw」
「わかる~ww」
仕込みをしていると、隣の水道で必要な量の水をくんでいた女子二人共がそんな会話をしていた。どうやら、あのギャルたちは女子の中でも相当忌み嫌われていたらしい。
そう思ったら、僕はヒーローとまではいかなくても、少なくとも人に貢献はできたのではなかろうか。
今頃あの人たちに堕とされているであろうギャルたちも。自分たちがいなくなったことで平和になる世界があると知れば、本望であろう。
「おいおいおい、伊豆奈が来たぞ」
「マジ?ちょっと、これ変わって」
「そのつもりだ」
気の利く友人、拓哉にその場を任せ、来店したという伊豆奈の元へ接客に行った。
「ここ?伊豆奈の彼氏のクラスって」
「そ、そう。どこかな…侑斗くん…」
「伊豆奈。ここだよ」
店内をきょろきょろとしていた伊豆奈の後ろから声をかけてみた。
体をビクッ!と反応させて軽く飛び跳ねてから、こちらを勢いよく振り向いた。
「びっくりした!いつからいたの!?」
「ついさっき。それより、注文は?」
「えっと、それが伊豆奈の彼氏?」
一緒にいた友人がそう訪ねた。
「うん!侑斗くん。自慢の彼氏だよ!」
友人二人は互いを見つめ、大きくうなずいた。どうやら、意見の一致を察したらしい。
「ど、どうしたの?二人とも…?」
「…その人…」
「チョーかっこいいじゃん!!!!」
教室内で、急にそういって立ち上がった彼女らを、人が注目しないわけもなく。すべての視線がこちらに集中した。
「ちょ、ちょっと。君たち、あまりにも大きな声は出さないで!」
「あ、す、すみません…でも本当にかっこいいね~」
「ねぇねぇ、今からでも、伊豆奈じゃなくて私にしない?」
「ちょ、ちょっと真夏!変なこと言わないで!」
女生徒二人が両腕を引いてきたけれど、僕はそれをそっとのけて伊豆奈を後ろから抱きしめながら
「ごめんね。僕は伊豆奈しか見えてないから」
といった。
伊豆奈はそっと、僕の腕で自身の顔を隠した。
「どうしたの?」
「か、顔っ、見られちゃう……」
友達等はやさしい顔をして微笑んでいた。
腕からは、とっても暖かな熱が伝わってきていた。
「ごめん遅れて。とりあえず飲み物は僕がやるから、拓哉は3人分のパンケーキを焼いておいて」
「……へいへい」
やっとオーダーを持ってきた僕に返した返事は、ふてくされ気味のそれだった。
「どうしたんだよ」
「いや、別に~。ただリア充様はこの後想い人と文化祭を回るんだろうな~って思ってさ」
ドリンクを作りながら質問すると、彼もパンケーキを焼きながら愚痴を漏らした。
「だから僕は助言したじゃないか。勉強ばかりやる暇があるなら、意中の人に玉砕して来いって」
「そんな時間があったら英単語10個覚えられるわ」
そんな反論をしながら焼き上げたパンケーキを、僕はお盆に乗せ、伊豆奈たちの席に届けて戻ってきた。
「あ、あと30分もしたら僕休憩で回れるようになるから、待っててもらえたりする?」
「うん。もちろん!」
帰り際にそう約束を取り付けてから。
この後が楽しみになったから、僕はこの後の仕事のみでクラスのMVPとなれた。
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