3日目 一日

先ほど任せた新入りは、うまくやっただろうか。心配だが、取り合えず信じることにした。


「楽しみだね、いっぱい!」

「うん。そうだね」


腕に体を絡ませて隣を歩く伊豆奈に、僕はにっこりとそう返した。

今日のルートをもう一度確認していたら、僕の予定帳を軽く背伸びして覗き込んできた。


「これ…えへへ。予定、こうしてメモしておいてくれたんだ…」

「うん。伊豆奈も?」

「うん。もちろんだよ」


そう言って、鞄から顔を赤らめさせてミニサイズの手帳を取り出して見せてくれた。

そこに書いてるものは僕の予定帳と全く同じ内容だった。


「全部同じだ…お揃いだね!」

「っ!う、うん。そう、だね」


キラキラとした目で上目遣いされたら。そりゃあ、うろたえるだろう。可愛すぎるなんだよこの子。

いつも通りのドキドキを胸の内に叫び、表向きには平然を装って僕はデートを続行した。


「じゃあじゃあ!最初はあそこ行くよ!」

「うん。もちろん」


僕らは二人。同じものを頭に浮かべ、最初の目的地へと向かった。



最初はまず、コーヒーカップに乗った。僕はある程度のスピードに抑えるよう努めたのだが、伊豆奈曰く


「早ければ早いほど楽しい!」


とのことで、伊豆奈は全力でハンドルを回していた。

おかげで酔って二人とも30分ほど動けなくなっていた。

その間に、僕は二人分のかき氷を買い、伊豆奈に一つ渡した。

二人とも同じブルーハワイにしたのだが、いまいち僕がブルーハワイ感をわからずにいたが、伊豆奈が隣で「ブルーハワイ感すごーい!」と口にしていたので愚問を投げかけるのはやめておいた。

二人ともの酔いがさめ、僕らは次にジェットコースターに向かった。

この遊園地の醍醐味である絶叫マシンの一つだったこれは、ただひたすらにめちゃくちゃ高い場所から突き落とされるようなもの。搭乗前、僕は少しの恐怖心を持っていたため、伊豆奈に


「ドキドキするね。ちょっと、怖いかも」


というと、伊豆奈はいたずらな顔を浮かべ、


「侑斗くん、もしかしてびびっちゃった~?」


といった。

まもなくして、ジェットコースターが発進した。

ぐんぐんと上り、上り、その度に気温が少しずつ下がっていく感覚がした。

やがて機体は最高潮まで達し、見渡すと先ほどまでいた地面にいる人たちがまるでアブラムシのように小さく目に映った。

やがて機体が落下するその瞬間。不意に、手に手の感覚がした。

ふっと一瞬見ると、それは伊豆奈の綺麗な手だった。僕がそれを見て、理解した瞬間。届く声かつ消えるような細い声で伊豆奈は


「無理」



機体はものすごいスピードで落下する。その間、僕は雰囲気のみの「うわーーーーー!」と叫んだ。伊豆奈は本当にこれに命がかかってると言わんばかりの剣幕で「ギィヤァァァーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」と叫んでいた。

機体が元の場所に戻り、停車した。僕らが出口から出るや否や、伊豆奈は膝からがたりと崩れ落ちた。


「こここっ…怖すぎる…」

「大丈夫?」

「ごめん、腰が抜けちゃったや…」


涙目になりながら、そう訴えかけた。だから僕は


「…じゃあ、背中。おんぶしてあげる」

「え、でも…じゃ、じゃあ、お願い…」


一瞬。いつもみたいに申し訳なさそうにしてから、この後を考え、おぶってもらったほうがいいと考えたのか、伊豆奈は素直に背中に乗った。


僕は伊豆奈を背に乗せながらお昼ご飯を食べる場所まで移動した。


「あ、ありがと…ごめんね、侑斗くん」

「何が?」

「私のせいで、時間なくなっちゃって…」


伊豆奈がそう悲しそうな顔をしたから、僕は隣に座り、手を掴んで


「全然。むしろ、伊豆奈と一緒の時間が多いからうれしい」

「でも、コーヒーカップも、ジェットコースターも全部私が時間とっちゃって…」

「可愛い伊豆奈が見れるからうれしい」

「それに、私今日何もしてあげれてない…」

「伊豆奈の楽しそうな顔見るだけで、十分だよ」

「…それは、本心?」

「勿論」


伊豆奈のすべてを、僕は受け入れていることを改めて伝えた。

伊豆奈は顔を赤くしながら


「…ありがと。元気出てきた」


といった。

僕は取り合えず伊豆奈に何が食べたいか聞き、お昼ご飯を買いに行った。

伊豆奈がお肉をご所望だったので、僕は星型ハンバーグを買ってあげた。

自分の分は、とりあえず無難にカレーを選択した。

お盆に乗せた二品を持ち、伊豆奈の元へと戻った。


「ありがとー」


と言って伊豆奈はハンバーグを受け取った。

僕らは二人で昼ご飯を食べた。


そのあとは、絶叫マシンを片っ端から乗りつくした。最初のやつ以外はすべて伊豆奈は楽しんでいた。

片っ端から乗っていたら、いつの間にかあたりは暗くなり始めてきた。


「暗くなってきたね」

「うん。あ、そうだ!侑斗くん、最後行きたい場所ある!」


と言って、元気よく手を引っ張った。


「ちょちょちょ…どこに行きたいの?」

「二か所ありますが、秘密です!」



…と言ってるけど。実は僕はどこに行きたいのかを知っていたりする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る