恋情の再発芽
今日も相変わらず朝から雨がザーザーに降っている。晴れていたらデートしようと侑斗くんに約束をつけていたのに、それもパァになってしまった。
「よく降ってるなぁ…」
しょうがないので自室に籠もって勉強をしていた。
外の雨音がよく鳴っている。窓を締め切っている自室にさえその雨音が響いていた。
ふと、下からチャイムの音が鳴り響いた。
「宅急便かな?」
もう一度チャイムが鳴り響いた。
「は〜い!今でま〜す!」
ドタドタと階段を駆け下りる。少し慌て気味の手付きで玄関を開けると
「え?」
「…ごめん、雨宿りしてもいいかな?」
その問いに私はコクっと頷き、「シャワー、浴びてきていいよ」といった。侑斗くんは「ありがと」と言って部屋に入っていったけど、その表情はどこか暗かった。
私は浴室に着替えを持っていってから自室に戻った。そして数十分後、侑斗くんは頬を赤く染めて入ってきた。
「大丈夫だった?」
「うん…平気…」
そういうけれど、侑斗くんは心なしか熱っぽい感じがした。
「そっか…えっと…」
次にどんな話題を出そうかと迷っていると、侑斗くんが近づいてきた。
「どうしたの?侑斗くん」
「……」
無言で。侑斗くんはこちらに向かってきた。
「ゆ、侑斗くん?」
「……ねえ、伊豆奈」
侑斗くんは、そう言いながら私をベットに押し倒した。
乱暴にじゃない。恐る恐る、柔らかくて、優しい手付きで。ベットにふわりと着地して、そのまま侑斗くんは上に乗ってきた。
「…侑斗…くん…」
ゴクリとつばを飲んだ。
不安と好奇心と、ちょっぴりの期待を持っていると、侑斗くんは言葉を発した。
「…一緒にいて、つまらない?」
「え?」
そういう侑斗くんの目には、不安と悲しさに満ちた感情が渦巻いていた。
「最近さ、大胆になってきてるから…もしかしたら、僕、伊豆奈のこと退屈させてるんじゃないかって…」
「〜〜〜〜〜っ!」
今にも泣きそうな顔でそう言われた。
こんなの、ずるいじゃないか。
かっこよくて、優しくて。私以上に真っ直ぐで。それに加えて優しくて。その上可愛いなんて。
ずるいよ。侑斗くん。
「…ん」
私は侑斗くんの首に手をまわし、抱きよせた。
頭を撫でながら、私は話し始めた。
「…あのね、私さ。侑斗くんのことさ、すっごく。すっごーーーーく好きなの」
覚えてるかな。私たちが初めて会った日。
あの頃ね。私、圧倒的に一番の成績で入学してさ。学校からも、親たちからも過度に期待されてさ。そのプレッシャーで押しつぶされそうになっちゃって。それでさ。最初にあった時の私は厳しい優等生って言う仮面をかぶってたんだ。そうしないと、メンタルが壊れちゃうって思ったからさ。
そんな日々のある日にさ。私、6人ぐらいの不良に囲まれたことがあって。馬鹿な私はいつもみたいに
「離れてください。警察呼びますよ」
なんて。それで怒らせちゃって。
「そんなこと言わずに~…さっ!」
「ふぐっ!」
私のことなんて、まるでただの物みたいに思いっきり蹴っ飛ばしてさ。
それで連れてかれそうになって。その時にさ
「おい!」
って。見たら大男より1回りも2回りも小さい侑斗くんがいて。
「やめろよ。何をダサいことしてんだよ」
「は?なんだチビ。あ~あ!俺気分悪くなったな~!おい。押さえとけ」
って抑えられて、何度も何度も殴られて、蹴られて。私さ、あの時何度も何度も「もういい」って言ったのに、侑斗くんったら「何してんだ、早く」って。
でもさ。申し訳ないのと、恐怖で動けなくって。それで、侑斗くんをやっと倒したのかって不良の人たちがこっちを向いた時。
大男の足にしがみついて
「……まだ…倒れてねぇよ…」
って言って笑って。
不良がもう一度殴ろうとしたときにパトカーが
「そこ!何してる!」
ってやってきて、逃げた不良たちを追いかけて行ってさ。
侑斗くん、頭から血が垂れて、何度も何度も蹴られたお腹はへこんでて。足なんて、折れててさ。
それなのに、私が
「大丈夫、ですか?」
って心配して聞いたらさ。侑斗くん、私よりもすっごく傷ついてたはずなのに笑ってさ。
「無事でよかった」なんて。何よりも優先して私のこと心配してくれてさ。
私ね。その優しさに最初惹かれてね。そっから、侑斗くんのこと知るたびに何度も何度も好きが膨れ上がっていってね。
「…だから私は、侑斗くんがたとえ死んでもずっと一緒だよ」
私は、その思いをまっすぐに伝えた。
この話の一字一句すべて本当のことだ。私の中の好きは、今はもうあふれ出している。だから最近は、行動が少しずつ大胆になっていってしまっている。
「…伊豆奈」
「なに?」
侑斗くんは体を少し起こしまっすぐ見つめてきた。
はっと息をのんだ。顔が近い。息遣いも。匂いも。侑斗くんの何もかもが直接伝わってくる。
「…侑斗、くん?」
「…ん!」
ふんわりと、やさしく。押し倒した時よりもやさしく、侑斗くんの唇が、私の唇に重なった。
舌が入っているわけでもないのに。なぜか甘くって。その時間は数秒だったはずなのに、数分かのように感じたし、でも終わった時は一瞬だったような気がする。
「………はわわわわわわわわわわわわ!!!ゆっゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ侑斗くん!」
「…やられっぱなしじゃ、嫌だから」
「~~~~~~~~っ!」
真っ赤になりながらそういう侑斗くんにノックアウトさせられてしまった。
二人だけの世界から出て、ようやく雨が上がっていたことに気が付いた。
「じゃ、じゃあ、僕、帰るね」
「あ、う、うん!また、明日…」
玄関で見送った後。私は自室のベットに顔を埋め、これまでないほどに悶えた。
「もぅ~!好き好き好き!!!!」
ベットの上でバタバタと暴れながら、唇の感覚がまだまだ残ってることにうれしさと恥ずかしさに真っ赤にしてベットにうずくまってしまった。
侑斗宅
「…これで安心」
伊豆奈の部屋を見ながら、僕はひとまず本当にしばらくの安心を実感しながら一息ついた。
今日伊豆奈にキスした目的は主に2つ。
一つは「好きな理由」を明確にして、それを植え付けること。自分以外が目に入らないほど盲目にさせて置くことだ。これで伊豆奈も大胆な行動の線引きができるようになって、さらに甘えるようになるだろう。
もう一つは、これ以上人を殺さないためだ。
最近、少しハイペースで人を殺しすぎた。もちろん、人なんて殺したくもないが、伊豆奈があまりにもモテすぎて心配で男を近づけないように近づいたよさげな男を全員殺してたけど、警察がさすがに動き回るようになってしまった。
だから、盲目にさせて、他の男が取り付く島をなくすようにした。これで、しばらくは自衛をする必要がなくなりそうだ。
まあひとまず。成功してよかった。そのことに一息つき、僕はパソコンを閉じ、ベットに飛び込んだ。
「……甘かった、な」
だけどそこにはうれしい誤算があった。
僕もまた、彼女以外目に入らないほど盲目になってしまったということだ。
あのハグされた感覚が、まだ体に染みついている。
「…ああ、幸せ」
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