歪みに歪んだ片思い 3
「さ、とっとと解放してあげて」
「あ…くぅ…」
彼は喉元にカッターナイフを当てながら、玄関のほうにそういった。
直後、玄関のほうから大男が二人やってきた。彼らは私の元へ近づくと、私の手錠をいとも簡単にちぎって見せた。
「うん。じゃあ逃げな。あと、このことは伊豆奈には内緒で」
「は、はい!」
「じゃあ、彼女送り届けてあげて」
そういうと、大男が二人ボディガードについたから。私は早く部屋を出ようとした。
「ふざけるなぁ!」
出ようとした瞬間。彼は逆上し、胸元から刃物を取り出し、そのまま…。
「危ない!」
「あ」
そのまま、助けてきてくれたヒーローは、お腹を刺された。
「あ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
真っ赤な血だまりを作りながら倒れる彼を見ながら、刺した張本人は腰を抜かして床に座り込んだ。
それは私も例外ではなく。
「ひっ…そんな…」
名前もまだちゃんと聞いていないヒーローは、名前を聞く間もなくいなくなってしまった。
だけれど、人はそんなに情深くない。今にも、私は刺されてしまうのでは無いかと人の心配はそっちのけで怯えていた。
「は、早く逃げ…」
「あ、はぁう…こ、こうなったらやけくそだぁ!お前らも死んでしまえ!」
気が動転したのか。はたまた本当にただのやけか。彼はその罪がまとわりついたナイフにさらに罪を着せようとしてきた。
彼との距離はおよそ10メートル。逃げれないこともないが、狭い通路で四方八方全て塞がれている状況で逃げ場なんてどこにもなかった。
死ぬ!
その思いが体を支配して動かそうとするも、塞がれているからには逃げることができない。
キュッと目を瞑ったその瞬間だった。
「…なんてね」
「ヴっ!」
バチっと音が鳴った後。男は白目を剥き、痙攣しながら倒れた。
その奥には、さっき刺されたヒーローがスタンガンを持ち立っていた。
「流石に、お前みたいなやつの家に上がるってのにチョッキの一つも着ずに入るなんて真似はしねぇよ」
「…よかった…」
安堵で私は腰が抜けてしまった。
「んじゃあ、とりあえず彼女は俺が連れてくから。君たちは俺がこいつを止めてるのを聞いてここに来たってことにして警察呼んでおいて。はいこれスタンガンのレシート。スタンガンも彼のにしておいてね」
そう指示しながら彼は腹部から血糊が入った袋を取り出し黒い袋に投げ捨てた。
大男はこくりと頷きだけ返して電話をとった。それを確認して、ヒーローは私を連れて帰路へと着いた。
前からパトカーが何台も通り過ぎる。まさかその隣を通り過ぎる高校生があれを解決したヒーローと、そしてその事件の被害者だとは誰も思わないだろう。
そのあと、私は彼の家でしばらく保護され、叔父さんが呼ばれた。
叔父さんは私を見るなり、大粒の涙をボロボロと流しながら「どうして俺らを頼らなかったんだ!」と叱責をした。
ひとしきり叱責した後、叔父さんは私を強く抱きしめてくれた。
二人でひとしきり泣いた後、二人でお礼を言って帰路についた。
「…どうした?顔、赤いまんまだぞ」
「そ、そそそそんなわけないでしょ!」
と言いながらも。私はまだ彼のやさしい顔が残ったままだった。
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