歪みに歪んだ片思い 2
「…うう…」
背中にまだ焼けた後のような違和感を覚えながらゆっくりと目を覚ます。
立ちあがろうとした時。違和感に気がついた。
「えっ…」
私の手首には手錠が付けられていて。腕を上げるような体勢になるように縄でベットに固定されていた。
よくよく見ると、足にも同じようにピンと伸ばした体勢になるように固定されていた。
「何…これ…」
ひとまず。周りの確認をと思った矢先。目に飛び込んだその部屋に背筋を凍らせた。
部屋一面に貼られた写真。そこには私と伊豆奈会長のばかりが写っている。
特に伊豆奈会長のものは、プライベートなものまで。幅広く写真が撮られていた。
「起きたのかい?随分とお早いお目覚めだ」
「ひっ!」
「そりゃあひどいよ。香苗ちゃん」
香苗。それは私の名前であって。それでいて彼なんかに教えたことのない名前だった。
「なんで…私の名前を…」
「当たり前だよ香苗ちゃん。君のことをずっとみてきて、ずっと大事に思ってるのは僕だけなんだ…」
彼はそういうと、ケヒケヒと気味の悪い笑いをして部屋を出ていった。
気味の悪さと共に。早くここからでなければという使命感が芽生え始めた。
「んっ…こ、の…あぁ!」
どれだけ力んでも手錠はびくともしなかった。辺りを見回し何か使える物がないか探そうとした時だった。
チャララチャララと。スマホが私を呼び出した。
「ん?誰からかなぁ?」
男は私のポケットを探り、携帯を取り出した。
スマホの画面を見るや否や。彼はそれを思いっきり壁に投げつけ、私の肩を掴んでベットに押さえつけた。
あまりに一瞬のことすぎて。私は体を強ばらせることしかできなかった。
「…誰だい?春希とかいう男は…」
春希。それは私の友人で、女の子の名前だった。
だが、中性的な名前なのが仇となってしまった。今彼にはどうやって私を自分のものにするかしか頭にないのだ。そんな中で男とも取れる名前が出れば、そりゃこうして暴走するだろう。
「違っ…!その子は、友達で…!」
「男友達で、好きなんだろ?ふざけやがって…こうなったら!」
そう捲し立て、彼は服を脱ぎ始めた。
そこで全て察し、どうにか抜け出そうとした。だけれど
「大人しくしろ!」
「ぐえっ!」
思いっきり顔を殴られてしまった。大人の。しかも親でもなんでもない赤の他人からの暴力。それは私の思考を止めるのには十分だった。
私が何もできない間に。彼は服を全て脱ぎ捨てていて。次に彼は私の服にも手をかけてきていた。
「はぁ…はぁ…こうなったら、香苗。僕と既成事実を作るよ。大丈夫。優しくリードしてあげるからね…ケヒッ!」
恐怖に支配され。ただただ助けが欲しかった。悔いしかない人生だと自負していたけど。きっとこれ以上の汚点は生涯ないだろう。
ただ、もしも神様がいるなら。もしも、誰か助けてくれるなら…。
「…助…けて…」
喉から漏れた、掠れた声。だけど、それは確かに届いた。
ピンポーンと、呼び鈴が鳴る。
「すみませ〜ん。シロイヌ宅急便で〜す」
「…っち!怪しまれる前に出てくるか」
彼が服を着直し、ドアを開いた瞬間だった。
「ひぃ!」
「さ、大人しくしな。おい、早く探し出せ」
その声がはっきり聞こえた。それは、つい先ほどに聞いた声に酷似していた。
「…ま、さか…」
「おう、さっきぶりだな」
死角から歩いてきたのは、さっき助けてくれた彼だった。
彼は、怯える男の喉元にカッターナイフを突きつけていた。
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