血に濡れた愛

時雨悟はち

順調

狂愛

君。

今、この文を見ている君に言っている。

君には、好きな子はいるだろうか。

……ドキッとした心よ。それが本心というものだ。


っと、話が逸れ始めてしまったな。

この僕にも気になる子。

所謂、好きな子がいる。


成績優秀


才色兼備


正にザ・優等生な彼女。それが、浜宮 伊豆奈はまみやいずなだ。

彼女が僕の好きな人。好きな人であり、


同時に


侑斗ゆうと君。口元、クリームついてるよ」


僕の、彼女である。



「ん…」


そんな伊豆奈が、口元を指でなぞった。

その指に付いたクリームをぺろりと舐めた。


「えへへ、おいしー」

「…そっか。よかったね」


あまりの恥ずかしさに目を背けてしまった。

すると、そんな俺の顔を回して


「むう…こっち向いてよぉ」


と言ってぷくぅーっと膨れてしまった。


「ご、ごめんって。よしよし」

「んん…もっともっと…」


頭をなでてやると、猫のように甘えてきた。


「はは…よしよし」


可愛い。


甘えん坊な伊豆奈も


冷静な伊豆奈も


伊豆奈の何もかもが愛おしい。


このまま永遠に続けばな、なんて毎日考えている。



でも、その一方で。



もし、伊豆奈が離れてしまったら、とも考えてしまう。

伊豆奈は学校で大人気で、優等生で、生徒会長でもあるほどの言わば憧れだ。

そんな憧れを好きになる男子は、いくらでもいる。


一方で、僕は自分に全く自信のない根暗な人間だ。そりゃ、不安にもなる。

だけど、僕はこれからもずっと、ずっっっっと一番でありたい。ならなきゃいけない。


そのためには、努力を惜しんではいけない。躊躇うことは、許されない。



夜、人気ひとけのない駅前に、二人のガラの悪い男がいた。

年はおおよそ30前半ぐらいだろうか。


…いや、そんなことはもう気にする必要がない。


「あの子。どうよ」

「んん~…あり。行くぞ」


まさに足を進めた時


「何してるんですか?お兄さんたち」

「…あ?」


フードを深くかぶった少年が声をかけた。


「なんだ?お前。わりーが、男はもう間に合ってんだよ」

「知ってます?ここら辺に最近殺人鬼が出るらしいですよ」


男の話はなかったかのように話を続けた。


「あ?殺人鬼?そんなのデマに」

「なんでも、愛が歪みすぎた精神異常者だって噂です」


また。男の話はまるで聞こえてないかのように語り始めた。


「おいガキ、あんまり舐めてると」

「……ふふ」

「…は?」


男が素っ頓狂な声を出したその時だった。


「あーっははは!!!!ひっどい話ですよねぇ!?ははははははははは!!!!ほんと、好きな人のための努力をそんな風に言うなって話ですよ!あーっはっはっは!!!」

「…こいつ…やばい…」


男が呟いて逃げようとしたその時だった。


「あ、足が滑った」


ガッシャ―ン!という音に交じって、何かがバキバキ折れる音が響いた。

男が下敷きになっているものは、換気扇だった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!あにきぃ!!!!!!!兄貴ぃ!!!!」

「あれれ~。こんなもの、どこにあったのかな~。全く気付かなかったなぁ~」


子分が問いかける中で、男は、うんともすんとも言わず、ただ、消えるような声で


「逃げ…ろ…」


と、誰にも聞こえない声を出した直後、少年は、懐からナイフを取り出し、子分の腹を裂いた。

かぶっていたフードを脱ぎ、少年は。


…いや、一番にこだわる彼は


「一番になれなくなるかもしれないじゃないか」


そう言って、踏んでいた縄を握りしめた。

歪んだ愛情は、全部、全部伊豆奈に。


そうして、改札に入っていく彼女を見て、ニマっと笑った。

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