第4話 氣とお茶っ葉
次の日
狩りに行く前にもっと氣の扱いに慣れておこうと、目覚めたおれは引き戸をガタガタと鳴らし外へ出る。清々しい朝だ。その引き戸の音でジェフが目覚める。こいつ、夜はしっかり寝ていた…立ったままだったけど鼾を掻いていた。
「おはようございます。」
「…おはよう」
さあトレーニングだ。魔法が使えないか色々と試してみよう。氣を掌に集め、水の球になるようなイメージを構築する。
「…うぬぬぬ…ウォァタ」… バキバキバキバキドーーん! 気弾はそのまま近くの林の木々をなぎ倒し爆発する。
「ネイティブっぽく発音したがダメか…。次だ…うぬぬぬ…ファイヤー!!」
拳を空に向かって振り上げ放ったが失敗。丁度飛んできた鳥が羽を撒き散らし爆散した…すまぬ。やっぱ呪文とか詠唱しないとダメか?氣は魔力とは違うと言ってたし出来ないのかな?試行錯誤を重ねていると家の中が騒がしい。
(あ!こら!待ちなさい!大人しく…あああ!そっちはダメです!戻って来なさい!…ドンガラガッシャン!)
何事か、と家に戻ると居間に食器類などが散乱し、ジェフが木皿を頭の上に載せ立っていた。手にはなにやら金属球を持っている。
「あ、鉄志様、お騒がせして申し訳ありません。工作中に少し失敗してしまいました。すぐに片付けておきます。」
「…なにやってっか知らんけどあんまり物を壊すなよ。気を付けてくれよ」
気を取り直してトレーニング再開だ。修行するぞ、修行するぞ、修行するぞ! しかし魔法は今のところダメだな。是非とも使いたかったが剣と魔法の世界は一旦諦めて、戦闘民族にでもなるか。
狩りに必要なのは…索敵と隠密性だろう。漫画のおかげでそれらのイメージは頭の中に腐るほどある。腰を下ろし座禅を組み、お釈迦様のポーズで目を瞑り体中から氣を拡散させる。
……おぉ…目を瞑っているのに周囲の状況が手に取るようにわかる。
土中に蠢くミミズ…お役所仕事のような速度で進むモグラ…家の中ではミスってトンカチで自分の手を打つジェフ…なにをやっているんだあいつは…
次は気配を殺そうとさっきとは逆のイメージで、氣を内へ内へと押し込め流れを止める。…出来てるのかこれ?確認しようがないな…と思っているとジェフが飛び出してきた。
「鉄志様!?あっ、よかった…そこにいらしたのですね。突然反応が消えたのでまたいなくなられたのかと…。」
成功したようだ。あとは実際に狩りに行って実践して慣れていこう。
「何事もなくてよかったです。ついでにこちらをご覧下さい。試作品になりますが、自律型の偵察用小型メカです。スキッタードローンとでも名付けましょうか。」
ジェフが手に持っていた、鈍い銀色のソフトボール大ぐらいの金属球を地面に下ろす。すると ガシャン と球から4本の脚が生え、辺りをカサカサと動き回る。
「劣化してしまったレプリーターでは大きい物や複雑な物は作れませんが、小さなパーツを組み合わせて作りました。こいつを使って周辺の情報を集めようと思います。」
「すげえ、キモかわいい感じだな。おまえの事見直したよ。でも呼ぶには名前が長い…丸いから"タマちゃん"でいいだろう。ところで、いいのか?林の方に走っていってるぞ?」
「あ!こら!止まりなさい!戻ってくるのです!タマちゃん!言うことを聞きなさい!」
小型メカは林へと消えていき、ジェフもそれを追いかけて行った…そのうち帰ってくるだろう。おれは修行を切り上げ畑の世話をしにいった。
日が暮れて飯を食ってると葉っぱをくっつけたジェフが帰ってきた。
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それから3ヵ月ぐらい経った。
今や氣の扱い方は相当なモンだ。フ〇ースマ〇ターといっても過言ではない。生物を察知する事も獲物に気付かれず近寄る事も楽勝だ。氣を物質化して刃物や鈍器のようにする事も出来る。なんと空も飛べる!広げた氣の中を泳ぐような感じで浮遊したり、体から噴射すればスピードも出る。
魔法擬きも出来るようになった。土に氣を拡散、浸透させ固くも柔らかくも出来たり、空気を圧縮し水滴を集めたり、更に圧縮し火も起こせる。身体強化を肺に掛け、フーッ!と息を吹けば突風も起こせる。お茶を口に含めばグレート・カ〇キも真っ青の毒霧殺法も出来るだろう。
そして畑にきた猪や狼などとの戦闘中の事だ。拡散した氣の間合いに入ったやつらの体内に、氣の流れと同じようなものがあると分かった。それを乱すように気弾を軽く当てると途端に弱る。小さい動物なら気を失うかそのまま死んでしまう。そう、指先一つでdownさせる事も可能。今のおれはtough boyだ。違うか。
そんなこんなの日々の中、肉や野菜は順調に備蓄できているが、問題が発生。元々あった塩と胡椒?が残り少なくなってきた。
「調味料が少なくなってきたなぁ…そろそろ人のいるとこにいってみるか?」
囲炉裏に座って向かい合い、お茶を飲みながら話しかける。
そう、タマちゃんの頑張りで北へ20km程いった所に人が住んでいるであろう集落がある事がわかったのだ。うまく接触できれば色々調達できるだろう。
「そうですね。人々からも情報を集めれば我々の目的に関しての手掛かりも何か分かるかもしれません。ですが、塩ぐらいならば私が生成できますがよろしければ作りましょうか?」
「遠慮するよ。おまえ、作ったものを股間のあたりから取り出すやん。そんなもん口にしたくないんだよ」
「つれない事をおっしゃりますが、お茶をおいしそうに飲んでいるではございませんか。」
「?それがどうした?」
「いつもよくお茶を飲んでおられるので切らしてはいけないと思い、僭越ながら私が畑の脇の茶葉を加工し補充しておりました。」
「おまっ!?通りで茶葉だけあんま減らないなと思っていたら!犬の件だけに飽き足らず勝手な真似を!二度と勝手にやるなよ!おれの許可をもらえ!」
「そんなに興奮なさらずとも体に影響はございませんよ。」「精神に影響があんだよ!」
土間に行き魔道具のお水で口直しする。戸棚を見て茶葉を捨てようかとも思ったが、唯一の嗜好品だ…一応取っておくか。
「うし、仕切り直して作戦会議だ。1歳児と見た目が歪なロボットだ、そのままいったら怪しまれるだろう。何かいい案はあるか?」
「パッとは思い付きませんが…そうですねぇ…偽名を考えられては?アドルフ翁の名前からして西洋風のそれっぽい名のほうが怪しまれないかと。」
「偽名もお約束みたいなもんだしな。使うかわからんが考えるか…う~ん…鉄…アイアン…志で…ウィルで…そのままウィルとするか」
「かしこまりました、では今後は基本的にウィル様とお呼びします。」
「んじゃ次だ」
1,2時間、会議は続いたがネタがもう出てこないので切り上げた。
おれは外へ出て、物置小屋から荷車を引っ張り出す。大八車の"八ちゃん号"だ、これを改造する。氣を利用すれば道具がなくても木の加工は簡単だ。氣で木を切る。なんちゃって。
「ウィル様、気温が下がってきたようです。風邪を引かぬようもう少し着込まれたほうが良いかと。」
家の窓から頭だけを出し、ポンコツがなにか言ってきた。
うるせーよ。無視して木板を何枚か作る。材料ならなぎ倒された木がいっぱいある。釘などは物置小屋にあったのを勝手に使う。トンテンカン、と出来上がったのは大八車の荷台の周囲を木板で囲った乳母車だ。乳母車としてはちとでかいが荷物も詰め込む為だ。
八ちゃん号改を完成させ、次は交換用や売れる見込みのあるものを準備する。畑の野菜を持っていこうかと思ったが、栽培された物を売ると盗品と疑われる可能性もあるのでとりあえずやめておく。んで用意したのが山菜と巨大な猪の牙。この牙はいつもの野菜泥棒の物ではなく、さらに大きな猪の物だ。
その大猪とは…一週間程前のある晴れた日に、狩りをしようと少し遠出した森の中での出来事。その森で奴と遭遇した。
いつもの猪の三倍はあるであろう巨体… その姿に圧倒されてはいたが調子と余裕をこいてたおれは、フゴフゴと茂みを弄っている奴の背後から強めに気弾を放つ。だが奴の体毛に弾かれた。その攻撃でおれの存在がばれ、奴がこちらを振り向く。一度で駄目なら何度でもだ。両手を使い連続で気弾を撃ちまくる。負けフラグか?…たいした傷もつけられず、攻撃で怒ったのか大猪が ブモォォ! と雄たけびを上げこちらへ突進してきた。
一旦距離を置こうと、木々の間を走り抜け逃走を図るが、大猪は巨大な重機の如く牙と額で木を圧し折り生い茂る自然を無視してこちらへ向かってくる。調子に乗りすぎたか、と少し焦ったが追い掛けられるのは多少慣れている。逃げながら次の一手を考える。
近寄りたくはなかったが仕方がない。フェイントを掛けつつ ズササッ と足を踏ん張り急停止。奴の横側に回り込みで両手に氣を集中、円錐状に具現化し回転させる。ドリルのつもりだ。両足をグッと曲げ地面を蹴り、ドリルを突き出し奴の脇腹あたりへとそのまま飛んでいく。
ズドン!グシュシュ!
突き抜けるつもりで行った体当たりだが、横腹に両手が埋まるぐらいの位置で止まった。的に刺さった矢の如く ビヨヨョーン とおれの体が上下に揺れる。大ダメージは与えただろうがまだ仕留めてはいない。突き刺さったおれを振り払おうと大猪が暴れ出す。焦ったおれは咄嗟にドリルに氣を送り込み爆発させる。 ボムン! というこもった爆発音とともに内臓が飛び散り大猪の動きと命が止まる…勝ったな…ナイスプレイだ。と血塗れでニヤリと笑う。その姿はナイスでなくチャイルドプ〇イだ。
……という出来事があり、その激闘を制した際に手に入れた
準備も終えて日が暮れてきたので、飯を食ったらもう寝よう。明日はいよいよ出発だ。
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