アイアンウィル ~異世界身勝手冒険譚~

じょん どぅ

第1話 異世界と赤ん坊

 とある世界の山脈…静かな深い森の上空に、突如けたたましい音が響き渡る…

 

 ドオオオォォン!!バキン!…ゴゴオオォォ……ズドン!………



 ___________________________________


 休日なので気持ちよく寝ていたおれは、突然の大きな音と振動に起こされる。

 また近所で工事でも始まったか?と伸びと欠伸をしながら重い瞼を開く。するとそこには鬱蒼とした自然の光景が…


「ぁん?」


 夢かと思い自分の顔に手をやろうとするが、腕が上手く動かない…。寝ているときに頭の下敷きになって痺れているのかと思い視線を動かすと、そこには小さいお手々。


「ぁ?」


 そういや呂律も回らない。もしや‥と思い下半身にも目を向けると、ポッコリお腹と小さなドリル、プニプニした足。おまけに素っ裸だ。


 徐々に早くなる心拍を抑えるように現状確認。どうやら体は赤ん坊になり、軽自動車ぐらいの宇宙船?っぽい乗り物のシートに収まっている。フロントガラスの向こう側は生い茂る植物、大自然の森の真っただ中にいる模様。

 もしかすると昨今流行りのアレか?おれが?マジかよ…そういえば、と昨日?の記憶をうっすらと思い出す。光量の多い白い部屋で銀色の人っぽいなにかが、任務だの能力だの何か言ってたような…。

 思い出そうとするとだんだんと頭の中が混沌としてきたので、一旦モヤモヤを振り払い記憶を整理する。


 自分の名前は憶えている。32歳会社員で独身、両親は健在、三人兄弟の真ん中…今までの記憶はそのままだ。だが仕事を終えた後、花火大会でごった返す人混みの光景を最後に、昨日の事だけがうまく思い出せない。

 

 忘れた記憶も気になるが、それよりも現状をなんとかしないと非常に拙い。異世界でなくても人が来そうにない森の中。目を覚ました時の妙な鳴き声や物音を考えると、絶対近くになにかいる。乗り物内が安全とも保障されない。


 ならば定番の

 

「ぅあぇえあう」(ステータス) 


 ………何も起きない…

 ならば次だ。魔法だ。魔力だ。体内に意識を集中だ。……これは!…ブリブリ!ジョワァ…

 やっちまった…ろくに動けやしないのにこれでは匂いとお尻がかぶれてエライ事になる。匂いと焦りで小さい体をモジモジさせていると、突然シートが振動する。

 アバババババ…お尻付近の不快感と臭いがなくなった。どうやら収まっているシートが汚物を処理してくれたようだ。異世界ファンタジー万歳。いや、これはSFか?


 気を取り直して意識を集中。……これは!…便意でも尿意でもない。モヤモヤした感覚、何かが体内にある!これをどうにかすれば魔法が使えるんじゃ?これまた定番の丹田に何かが集まるように意識する。キタキたキタ!このままお腹に集中してるとまた粗相しそうなので、何かを手の方へ移動する様イメージする。すると…


 ズドン!!


 手から出た!なんか出た!魔法じゃなくて気弾か?エネルギー波か?そっち系か?じゃなくてやばい。手を向けていたシート横側のモニターみたいな物に当たり、ガーガーピーピー言い出した。

 粗相した時同様、あたふたしているとフロントガラスが真っ黒になり、少しノイズが入った後、頭の鉢から上が禿げあがったおっさんの顔が表示された。…が、寝てんのか?目を瞑って鼾を掻いていた。


 



『zzz…は!?… おはようございます、鉄志様。私はあなたをサポートする為この船に積まれたAI、J-3839です。まあジェフとでもお呼び下さい。宜しくお願いします。』


 居眠りなんてしていませんよと言わんばかりのキリッとした顔でおっさんが喋る。一応返事しとくか。


「あうぇいうぅ」


 こちらも宜しくとは言いたいがうまくしゃべれない。てかAIのくせに寝てんじゃねえよ。こういうサポート系は美女か美少女とかが定番では?なんで禿げたおっさんなんだよ。と思っていると表情に出たのか、またおっさんがしゃべりだす。


『まだその体ではうまく話せないでしょう。ですが心配はございません。私は最新型のAIですので表情を見れば察せます。赤ん坊なので恥ずかしがる事はございません。出してしまったのでしょう?すぐに処理しますのでご安心を。』


 ブィーーン、アババババ… って確かにさっき出してしまったがそれは処理済みだ。なにが察せますだ。


『あら?違いましたか?おかしいですね…ならお腹が空いたのでしょう。食事をご用意致します。』


 …それも違うが、言われてみれば空腹だ。異常な状況での知らないおっさんからの食事だが、赤子の本能には逆らえない。シートの脇から伸びてきたチューブを咥えるとミルク?がじわじわと流れてくる。うまい。満腹になったところでうとうととなり、意識が落ちる。本能には逆らえない。





 …ガサガサッ…


 何かの音でハっと目を覚ますと、重なる木々の間から星空が見える。夜か…やはり夢ではなかった。そしてフロントガラスのおっさんは消えている。


 再びガサッと音がしたので、耳を澄ましガラスの向こうに目を凝らすと、外を大型犬ぐらいの何かが横切り茂みへ入っていった。暗くてよくは見えないが大型犬?は複数いるっぽい。茂みへ出たり入ったりガサゴソとなにやらやっている。

 やばいまずいどうしよう、と身を縮こまらせて息を潜め様子を窺っていると…おそらくこの乗り物にやつらは気付いていない。ハイテク宇宙船っぽいし、ステルス的な何かでどうこうしてるのだろう。少し安心して気を抜くと再び眠気が…おやすみなさい…。



 朝です。おはようございます。チュンチュン…ではなく、クェェェアァァァと奇声が聞こえてくる。モウヤダカエリタイ… と思っているとチューブが伸びてきた。うまい。

 気を取り直して現状確認。一応乗り物内は安全、飯もある。おっさんに色々聞きたいが出し方が分からない。

 現状出来る事は…と、昨日の気弾の要領で身体強化とか出来ないかな?とりあえず暴発しないよう、一ヵ所に集めずに体内を駆け巡る感じでイメージする。……手足が自分の意志で動かせる!一発で成功か!?体中にエネルギーを感じる。


 調子に乗ってシートの縁に掴まり立とうとするがバランスを崩し後ろへ転倒。痛い…この体じゃ強化してなかったら首の骨が折れてたかもな…もっと慎重にいこう。しかし起きたばかりだがもう眠い…再びシートに収まり眠りに着いた。

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