星の魔女の喫茶店

百日紅

第夜章 

第星話 トキと星の魔女

他じゃなく、あなたに一目惚れです!

 この世界には、魔法使いさんがいる。


 小さい頃にお母様が読んでくれた、数々の魔法使いさんの物語。

 魔法使いさんは、時には『一般人』を助けて。時には『一般人』を傷つける。時には世界そのものを救って。時には世界そのものを壊そうとする。世界を愛する方もいれば。世界を憎み嫌う方もいる。『一般人』である私たちに恋をする魔法使いさんもそれなりにいるし。魔法使いさん同士で恋をする方々も、もちろんいる。


 これは今は遠く離れた私の故郷で耳にしたことですが、どうも世の魔法使いさんの数がめっきりと年々減退しているようで。


 昔話でも昨今でも、どうやら『一般人』の皆さんの多くは「魔法使いと我々とは全くもって異なる存在である」と遠巻きであれ直接であれ、そう主観している節があります。


 これも今は遠く離れた私の故郷で耳にしたことですが、なるほどたしかに、魔法使いさんたちは『一般人』からは特異な存在と認知されているそうです。一部を除いて。私も『一般人』ですが、むしろ私は魔法使いさんも『一般人』もそう大差ないと思うのです。


『一般人』の私たちは、魔法使いさんのように魔法を扱うことは叶いませんが、困っている人を助ける時もあります。それとは逆に人を嫌うこともあれば。魔法使いさんに恋することだってきっとあります。私たちは異性を好きになったり。はたまたを好きになったりもする生き物なのです。

 思うにこれはきっと、魔法使いさんたちでも同じことだと。


 ところで随分と前置きも長くなりましたが、またまたこれも今は遠く離れた私の故郷で耳にした情報によれば、なんとなんと!この世界にはなる町が実在するとか。


 とても興味深いです。むふん。

 私が知る今は遠く離れた私の故郷以外に、そんな摩訶不思議な町があるなんて。ワクワクが止まりません。


 と、いうことなので………!!!


 来てしまいました。

 今の私は大きなトランクケースを引き、つばの大きなハットを被った新生活に期待を膨らませる可愛いかわいい女の子です。


 あぁ、つい三日ほど前は今は遠く離れた私の故郷にある実家でゴロゴロにゃんにゃんと自堕落な生活をし、身の回りのことは食事からお風呂、おトイレにいたるまですべて幼馴染兼メイドの女の子にやってもらっていたこの私ですが。

 とうとう親元からもあの子からも離れて一人暮らしをする日がここに。


 急にお父様から婚約者候補を紹介された時には、この何事にも動じず常にマイペースを自負するさすがの私も驚きました。


 だってお父様。私が半裸で寝ている寝室、早朝に婿候補の男性を連れて中に堂々と入ってくるんですもの。

 さしもの私も動揺しました。

 あの婿候補の男性と言ったら、寝ぼけ眼で、髪の毛もぼさぼさで、よだれの跡が残った頬で、半裸でふにゃふにゃな私を見てお顔を真っ赤っかにしていました。きっとあまりの私のふしだらな姿に怒っていたのでしょう。


 まぁこのように色々あって私は、実家を離れることを決めたのです。

 なんだかんだ自堕落な生活を送ってきて、生まれて16年間何かを成し遂げもしなかった穀潰しの私ですが、さすがに運命の相手を勝手に決められるのは堪ったものじゃありません。


 そう、私は。まもなく入るこの外から見ても不自然に真っ暗な町に、


――――――――出会いを求めて引っ越してきたんです!!!



「ふわぁぁあ!!」


 故郷から魔法列車に揺られて三日。

 私はとうとうこの町、『常夜じょうやの町』に着いたわけですが……


 すごいです!すごすぎです!

 本当にこの町は夜だったんです。私は自身の身に着けている腕時計を確認します。時刻は午前11時50分。まだまだ太陽さんがお仕事をしている時間です。にも関わらず、この町には見えるはずの太陽さんがいません。


 この町は不思議です。これも、誰かの魔法なのでしょうか?


 お空を見上げれば真っ黒なキャンパスに白、青、水色、と点々と輝くスパンコールのようなお星さまたち。とてもとても綺麗です。


 町の様子は、とても賑やかでした。

 夜でも暗すぎて何も見えないなんてことは無く、町のところどころに立つ街路樹に糸と糸を結んで、その糸にはオレンジ色の明かりを灯すランタンがいくつも吊るされているのです。

 なぜでしょうか?これはこれでまた、陽の光とは違った温もりを感じます。


 さて!まずは三日前に魔法郵便で頼んでおいた私がこれから住むお部屋を提供してくれる場所を目指しましょう。


 それと、一応あの子には手紙を残してきましたが、実家からはこっそりと逃げるように出てきてしまったので、もうほぼほぼ私は無一文に近いのです。

 出来れば、仕事も早めに見つけたいですね。


 町の入り組んだ道を案内が書かれた紙によって歩いていきます。

 ふむふむ、どうやら目的地はあまり人通りの少ない場所にあるようですね。


 そういえば、これは今は遠く離れた私の故郷で入手した情報ですが、どうやら私に部屋を提供してくださるところは、を営んでいるとか?

 どうにか頼み込んで、私もそこで働かせてもらうことは可能でしょうか。


 あ、見えてきました。

 ふむふむ………『星の魔女の喫茶店』ですか。


 とてもオシャレな雰囲気がする外装です。

 とりあえず、木で造られたモダンチックなドアを開いて入店。

 チリンチリンという涼しい音が店内で鳴り響きました。


「おや?いらっしゃい。………出会いを求めて来たのかい?おいで、ここには君みたいに魅力的で可愛い子がたくさんいるから」


 鈴のようで、とても耳残りの良い、聞いてて心地の良い声が、私の耳をくすぐりました。


 目を向けると、カウンターに座るお客さんとカウンター内キッチンで立ち話をしていた女性が私に、それはもう天使のような笑顔を向けているんです。


 店内には他にもちらほらと、のお客さんが座り談笑しています。

 どこか皆さん距離が近すぎるようにも感じます。


 その中で、この天使のような微笑みを私に向けてくれている女性。と言うより女の子?でしょうか。背は平均的な身長の私よりも頭一個分、小さいですし。


 後に、もうすぐ知ることになりますが。


 彼女は【星の魔女】。

 肩にかかるまで伸ばした癖のある髪は銀色で。笑顔で細まっている目の瞳の色は青、水色のオッドアイ。突くともちもち柔らかそうな頬っぺたに。その童顔には不釣り合いなほどに色艶やかな桃色のぷるっぷるの唇。


 ………確かに店内には魅力的な女性が何人も。

 ですが、私は、今この瞬間。



「他じゃなく、あなたに一目惚れです!」

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