魔道具の剣

 七十階は粗方魔物を狩り尽くしたので、ドアからダンジョン内へ来た早々に私たちは地下七十一階を目指した。


「スライムなんか見逃してたら、あっという間に増えるんだけどな。巣を全滅させたから」

「あ、私が落ちたあそこね」


 そう言えば、スライムを溶かしたあの光は、何だったんだろう。一瞬とても熱かったから、炎の魔法だと思うんだけど。

 階段を下り切った時、さっそくオーガの群れが襲いかかってくる。私はすぐに『守護』を唱え、パーティー全員の防御力を上げる。


「『ダークネスブレイズ』!」


 空中に舞い上がったショコラが黒い炎で敵を牽制する。仲間の中で攻撃呪文が得意なのはショコラだけど、私を助けてくれた白い閃光とは違う。


「がうっ!!」

【一体、仕留めました】


 タルトとパイもそれぞれオーガの首を狙い、的確に攻撃を加えていく。私が来るまでは唯一の人間だったジャックが敵の中に突っ込んでいくところはヒヤリとしたけれど、そこで私は彼の強さを初めて目の当たりにする。


 一閃。


 一瞬、光が走ったようにしか見えなかった。次の瞬間には三体のオーガの首が胴と離れていた。転がってきた首に思わず飛び退いてしまったけれど、焦げ臭い匂いに咄嗟に切り口を見てしまう。


(焼き切れている……?)


 魔物の気配が感じなくなったところで、ジャックに剣の事を訊ねてみる。


「ああ、これ。見てみるか?」

「いいの?」


 興味津々だったせいか、帯から外すと快く渡してくれる。鞘から抜こうとするが、剣はびくともしなかい。まさか伝説の剣だったりするのだろうか……とか思ってたら笑われた。


「伝説ってほどでもないけど、ドワーフの鍛冶職人とエルフの長が作った一品なんだぜ」

「これも魔法が付与された……魔道具って事?」

「そう、炎だけじゃない。敵の属性に合わせて付与される魔法も変えられるんだ。物理と同時に魔法攻撃ができるのはかなり便利だろ?」


 確かに剣技による勢いで魔法を叩き込めるのは、相当な攻撃力が見込める。全体へは無理だが数の少ない強敵には魔術師よりもダメージを与えられるだろう。ただ、こういう魔道具は消費魔力も高そうなので、どちらがいいとは言えない。


「ねぇ、どうしてジャックは剣士になろうと思ったの? 金眼の持ち主は魔力がかなり強いと聞いたわ。極めようと思えば、魔術師の方が向いていたんじゃないの?」

「そうは言うが、俺から見て魔術師はデメリットが多いんだよ。魔法を封じられたり使い過ぎれば途端に無力になるしな。その点、魔道具は触れるだけで使えるしコスパも高い。いちいち新しい呪文を覚えるより、魔法が付与された道具を見つけるなり作ってもらう方が楽なんだよ」


 いい事ずくめのように語っているけれど、魔道具に頼り過ぎるのも壊れた時に対処できなくなる。もちろん、ジャックがそうという訳でもないが。彼の言い方からして、剣も魔法も、魔道具を使う事も彼なりに一通り試した上で、今のスタイルを確立したに違いない。


(冒険者ギルドのクエストをこなすのに、一つだけ極める必要はないものね)


 納得したので剣を返そうとすると、一瞬手が触れ合う。ガシャンと剣が落ち、妙な緊張が走った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る