夕食作り

 ジャックが入浴している間に、夕食の準備をしなきゃいけない。きっと魔力を使い果たしてお腹の方も空っぽになってるだろうから。主人についていこうとするショコラを捕まえ、私は三人と裏口から畑に出ていた。


「修道院で覚えたスープを作りたいから、みんなには協力してもらいたいの。とりあえず材料になりそうな野菜を数点と……」

「アリス、その草なーに?」


 タルトが不思議そうに指さしたのは、根っこ付きのちんまりした草。


「冒険者ギルドに登録して最初に受けたクエストで、採取した薬草よ。こっちは魔力草……少しだけ貰っておいたの」


 実はダンジョン内で繁殖させられないかと思って、ポーチに入れて持ってきたのだ。畑のスペースを少し借りて植えると、『祝福』をかける。するとどちらもわさわさと成長を始めた。


「わっ、すごい! 薬草がこんなにたくさん」

「アタシたち、攻撃魔法がメインだから回復はアイテム頼りなの。助かるわぁ」


 嬉々として薬草摘みを始めた彼女たちは、根っこを残しておけばいくらでも採取できると言っていたが、パイは一度全て取り除く事を推奨してきた。


【『祝福』によって繁殖力が劇的に高くなっていますので、畑を分けておかないと他の作物を浸食します】

「ああ、聞いた事あるわ。ハーブとか他の植物を一緒に植えたらダメなんだっけ? この薬草も厄介な進化を遂げちゃったみたいね」


 これもローリー様から聞いた知識で、ミントなど庭園を台無しにしてしまうほど増えてしまうのだとか。幼い頃から庭いじりが好きな彼女らしい雑学だ。


【アリス様さえよければ、私の実験室ラボで研究させていただきたいのですが】

「そ、それは構わないけど……」


 自分の寝室の事、実験室って呼んでる……引きつりつつも夕食の材料以外の薬草をパイに任せ、野菜を軽く洗ってキッチンへ戻った。大鍋にタルトが作り置きしていたブイヨンを入れ、野菜と薬草を投入して煮込みながら塩胡椒で味を調えていく。


「大地の恵みをお与えください、我らが女神様の御加護を……」

「まるでポーション作りねぇ、通常魔法か神聖魔法かの違いだけで」

「ふふっ、これでも味は段違いにおいしいのよ」


 修道院で振る舞っていた薬草スープは、簡単な割に古傷や病気によく聞くと評判だ。ポーションがまずくて飲めない子供も、このスープならぺろりと平らげる。魔力草は枯渇した魔力を回復させるアイテムで、魔術師の必需品だと冒険者ギルドで教えてもらったので今回挑戦してみた……まあ、実際は魔道具の使い過ぎなんだけど。


「お肉は追加しないの?」

「あんまりギトギトになると薬草の効果が薄れるのよ。それは別に焼きましょう」


 後は灰汁を取りながら弱火でじっくり煮込むだけ。


【ここは私が見ておきますので、アリス様は先に入浴をお勧めします】

「そう? じゃあお願い」


 パイに後を頼むと、私はエプロンの紐を解いた。


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