初めてのクエスト②
メイズ侯爵領にある『魔の森』――こう呼ばれ出したのは、最初からではない。何なら蛍狩りに来た当時は『妖精の泉(と周辺の森)』だったはず。位置的には街よりも侯爵邸に近いので、ある程度馬車で戻る事になった。
(それが今や柵でガッチリ囲われて、結界内だけ物々しい雰囲気になってしまっているわ……)
ダンジョン攻略を含む魔の森のクエストを受けた冒険者たちは、門番のいる柵の出入口で冒険者ギルドが発行したメンバー証を見せる事になる。魔物を通さない結界ぎりぎりに柵を打ち込んでいるのは、うっかり一般人が迷い込まないようにだ。
「と言う訳で、一般人のダイナは柵の外側で待っていてもらうわ」
「お……アリス様、くれぐれも……くれぐれも! 森へ深入りはしないでくださいませ!!」
手をぎゅうっと握って懇願するダイナに、曖昧に笑ってみせる。ダンジョンが出現してから半年、外の魔物たちは狩り尽くされたとは言え、この瘴気では低レベルの魔物くらいならすぐに生まれてくる。まあ薬草も育ちやすいという恩恵はあるのだけれど。ポーションの原料だから魔術師に需要があるのよね。
「群生地が記してある地図を貰ったから、そんなに遠くへは行かないわよ。それよりダイナには、門番の人から情報を聞き出してほしいの」
「かしこまりました。お昼には一旦こちらにお戻りくださいね」
一応日傘とランチボックスは手渡されたものの、私が帰らなければダイナがお昼抜きになってしまう。まあ一日目ではあるし、とりあえず柵から一番近い群生地に行ってみますか。
「女神官アリス……通ってよし」
「なあ、あの格好何なんだろうな? 確かに聖衣ではあるけど」
「シッ、私語は慎め」
私が結界内に入った後、門番同士がヒソヒソしているのが聞こえてきた。別に酔狂で着ている訳でもないけど、そう思われるのは想定内だったりする。
(さて、群生地に行く前にぶらっと散策しましょうかね)
地図を広げて現在地を確認する。今や蛍どころか妖精も寄り付かない元・妖精の泉。聞いた話だとかなりやばい事になっているらしく、新米の神官一人じゃとても浄化はできない。群生地もこの辺りに密集してはいるが、近付かないのが賢明だろう。
そう言えば、エディス嬢を突き落とした噴水って確か、妖精の泉近くじゃなかったか……
(……えっ??)
記憶と共に地図を辿っていた指が止まる。
ちょうど噴水があったらしき場所には、『ダンジョン』と書かれていた。
「おい」
「ひえっ!! あわわわわ」
いきなり声をかけられ、心臓が止まりそうになった私は思わず悲鳴を上げる。
振り向けば、小汚い格好をした男女が数名立っていた。恐らくダンジョンから帰還した同業者だろう。
「びっくりした……花嫁さんがこんな場所に迷い込んでるんだから」
「出入口まで送ってあげましょうか?」
「あ、いえ私も冒険者なんです。神官で……」
メンバー証を見せ、薬草摘みに来たのだと説明すると、彼らは顔を見合わせる。
「いくら薬草を摘むだけとは言え、一人は危ない。うちは大人数のパーティーで、攻略も交代で行っているから、控えのやつを同行させようか?」
「え、いいんですか?」
本来なら正式に護衛として雇い入れるところを、控えとは言え厚意でついてきてもらっていいのだろうか。少し迷ったが、とりあえず昼前になったので私は一度ダイナと合流する事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます