第7話 川本先輩、本当にバイトしてる?  

 桃園中央高校の芸術コース美術専攻で3年生となり、東京藝大の美術学科を目指して本気の受験生となった山鹿麻矢は現役合格を目指して夏休みから藝大美大への進学で実績のある福岡の予備校に通い始めた。夏休みの夏季集中講習会以降は土日の週末講習、冬休みの集中講習、そして1月は週末講習。受験の本番直前は東京・浅草に予備校が数部屋借り上げて予備校OBで東京藝大生や院生を助っ人に呼んで直前講習。一次試験は突破した麻矢だったが二次でつまづき、現役合格の夢は散った。

 浪人となってのリベンジへ向けて、予備校の特待生認定試験でトップ合格を勝ち取って学費半額の特典で改めて入校。4月の初日から学科の授業も受けている。


 同時に父親に紹介してもらった輸入車のディーラーで洗車のバイトが面白くて予備校終わりに2時間ほど働いて帰ってくる毎日のパターンが出来つつあったが、同時に週イチで別のパターンもできつつあった。

 洗車のバイトは火曜日がディーラーの定休日なので休みなのだ。

 予備校に通う先輩で今年で4浪目の川本厚も近所の店でバイトを見つけたのか急にお金回りが良くなったようで、麻矢をカラオケに誘うのだ。これは受験の前からで、手持ちが無いのにカラオケに誘う川本を巧みに避けていたのだが、麻矢も嫌いではないし、川本厚がお金を持っているならと誘いに乗ってカラオケ店に。


「やったあ、やっと行けるよ、山鹿ちゃんと、めっちゃ久々やん」

「久々って川本さん、前に行った時は結局ボクが全部払ったままやし。今日は持ってるんでしょうね、お金?」

「大丈夫、心配ないって」

「本当にバイトしてるんでしょうねー?」

「してるよー。そこはさ、日本の博多好きのアメリカ人の店でさ、ありがたいことに週給でくれたんよバイト料を」

 そう言いながら川本厚は後ろポケットから長財布を抜いて麻矢に見せた。なるほど、いつもは薄くて立たない財布が辛うじて立っていて~この人なんかヤバイ仕事してんじゃないの~とも思った。

 それはおいおい確認していくことにして、とりあえずカラオケ店へ。


「川本さん、今晩はバイト行かなくてイイんすか?」

「オレも火曜日は休みなの、定休日だから店が」

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