第269話 約束履行とこの国の現状

城壁上の監査団の守りを兵士さん二人に任せ、私は単独討伐任務。

城壁から離れて魔獣包囲網の外の平原に降りて、ちょこっと魔素吸収。

ほれ、寄って来い。


面倒なので、討伐は破壊矢球体バージョン。

魔力消費多いけど、さっき魔素吸収したから数時間は持つ。

それに、寄りが悪くなったらまた魔素吸収すればいい。


でも、一時間くらいしたら魔素吸収しても寄りが悪くなった。

どうやら王都の反対側の魔獣までは寄せられないっぽい。

周りに魔獣がいなくなったので討伐場所を変えようと、報告に城壁上へ戻ったら、

護衛の交代を要求された。

兵士さんたち、目の前に魔獣がいるのに戦えなくて、ストレス溜まってたみたい。


みんなで反対側の城壁に移動して、残ってた魔獣の群れに兵士さん二人突入。

この二人には破壊矢球体バージョンも教えてあるけど、ほとんど使おうとしない。

多分球体に包まれてボーっとしてるのが性に合わないんだと思う。

破壊矢乱れ打ちながら盾魔法と剣で魔獣いなしてるし。


城壁上のギャラリー、なんかスポーツ観戦の観客みたいに興奮してるぞ。

どんどん歓声が大きくなってる。

私が戻った時はそんなに興奮してなかったよね? やっぱり戦いは動きがないとダメなの? 破壊矢球体バージョン便利なのに…。


一時間ほどで反対側の魔獣もほぼ片付いた。

兵士さん二人、汗は掻いてるもののスッキリした笑顔で城壁に戻って来たら、周りからは拍手の嵐。

近くにいたこの国の兵たちまで拍手してるし。

二人は手を上げて拍手に答えてるけど、若干恥ずかしそうだ。


王弟殿下の約束は果たせたので、今度は変質魔素を止めなきゃね。

王城に戻ったらここの兵たちの敬礼で歓迎されたので、魔素吸収魔法陣の場所に案内を頼んだ。


文官っぽい服装した人が案内してくれて、みんなで王城内を移動。

メイドさんや下働きの人たちが頭下げたり跪いたりしてるんだけど、これはいつものことなの?


まず案内されたのはダンスホール。

秘密の入り口があり、そこから床下に入れた。

床下はある程度の高さがあって、大人がお辞儀するくらいで歩けた。


魔素吸収魔法陣、動作して変質魔素を垂れ流してます。

各国の魔導師さんに確認してもらい、その後は私が魔法陣を破砕。

粉々にしたので、たとえ再結晶化できる人でも継ぎ足し再起動は無理だよ。


床下から出たら、廊下が暗くなってた。

さっきの魔法陣は、照明の動力だったっぽい。


暗くなった王城内を移動し、今度は尖塔の屋根裏へ。

こちらも秘密の入り口ありました。

先程同様、確認してもらってから魔法陣を破砕。

この魔法陣はなんの動力だったんだろう?

気になったので案内してくれた人に聞いたら、王族エリアの冷房用だった。

変質魔素垂れ流しながら、自分たちだけ涼んでやがった。


残りの魔素吸収魔法陣は城下なので、王城の兵士数人を説得役にして移動開始。

なんでも兵士が建物を警備してるらしいから。

城下の四箇所は、二箇所が街灯用で残り二箇所が貴族屋敷の冷房用。

夜の照明のために日中も無駄に変質魔素出してるし、ここでも貴族たちだけ涼んでやがった。


貴族街にいる貴族たちは、まだ王城での出来事を知らないはず。

貴族は私兵雇ったりしてるはずだから、冷房止まったら王城に来て揉めるんじゃないか?


心配になって聞いたら、魔獣討伐してる間に伝令出したらしい。

『魔素吸収魔法陣使って利益貪ってた城の奴らは、国際会議から犯罪者指定された。身柄の引き渡しを条件に国際会議がスタンピードの魔獣討伐と食糧支援を約束してくれたので、王城の兵や使用人たちによって投獄された。助かりたければ、犯罪者ではなく国際会議の代表団に協力すべし』

伝令の内容聞いて、まだこれから上位貴族や裕福層対下級貴族平民との戦いがありそうだと暗い顔したら、説得役の兵士さんがこの国の現状を話てくれた。


この国、主要産業が魔道機械しか無く、農業にも適さない土地が多い。

魔道機械技術は一部の権力者に独占され、情報流出は疑いだけでも死罪。

外貨を稼げるのは一部の権力者だけで、食料を輸入できるのも権力者のみ。

権力者が輸入する食料が無ければ餓死してしまう平民たちは、横暴な権力者たちに逆らうこともできず、権力者たちのいいように使われる毎日。


平民たちは気候的に食料を備蓄することは不可能で、冷蔵の魔道機械を持つ権力者だけが大量に食料を抱えている。

暴動を起こそうにも、食料の無い大勢の市民と大量の食料を持った権力者では長く戦うことなどできず、食料庫は大砲に守られている。


しかもこの国は国境を接する他国が無いため、逃げ出すことすら難しい。

一番近い陸続きの隣国は、400kmもの魔の森の向こうだ。

さらに外洋を渡れる船は、すべて権力者が管理している。

こういった事情で平民や下級貴族は常に権力者たちに不満を抱いているものの、反抗すれば死が待っているために、奴隷のように隷属するしか無かったそうだ。


だが今回は、権力者たちを引き渡せば国際会議が支援を約束してくれた。

実際王都を囲んでいた魔獣の群れを二時間ほどで殲滅し、住民たちを守ってくれた。

しかも、隷属の象徴とも言える魔道機械の動力である魔素吸収魔法陣を破壊してくれる。

それに騎士団はスタンピードの救援のために他の町に出払っていて、為政者側の戦力は激減している。

住民たちは魔素吸収魔法陣が魔獣発生原因の変質魔素を出すことを知っており、魔獣討伐に何度も行かされる平民や下級貴族は、諸手を挙げて賛同するはずだと言われた。


現状を聞いてゾッとしたよ。

自分たちが生き延びるには、自分たちを脅かす魔獣の発生原因を使って大儲けする権力者たちに従うしか無いわけだ。

まさに八方塞がり。逃げ場が無い。


我が国を襲って捕虜になった者たちが、妙に聞き分けが良かった理由が分かったよ。

束縛されて自由は無いものの、理不尽な命令はされずに食事もきちんと出る。

捕虜生活の方が、自国にいた頃よりましだったんだ。


私は港町が襲撃された時、覚悟を持って敵兵を海に落とした。

装備の重さで、相当な人数が溺死するだろうと分かっていて。

戦争だから仕方がなかったなんて言う気は無いし、被害者の家族から人殺しと呼ばれることを覚悟してやったんだ。


リーナは王族として生まれ、王族として育てられ、王族という特権階級にいる。

国のお金で良い環境と高度な教育を受けて育ち、王族としての特権を国に保証されている以上、国のために働く義務がある。


対して私は名誉魔導侯爵なんて地位はもらったけど、あれは功績に対するお礼と、私を他国に渡さないために自国の侯爵であると主張したい束縛的な称号だ。

つまり私には、戦う義務は無かった。

それでも私が戦ったのは、魔道具の技術を武力で強奪しようとするような者たちには渡したくないという、私的な感情からだ。


王族である義務を果たしたリーナと、私的な感情で戦った私。

数百名の溺死者を出したという結果は同じだけど、私の方がよほど悪辣だ。


そう理解した上で、溺死する兵の中には他国を襲うことを強要されて来た者もいるだろうとも思いつつ、敵兵を海に放り出した。

覚悟を決めて行った以上後悔なんてするわけにはいかないけど、さすがにこれは犠牲者が可哀そうだぞ。


私に人殺しをさせたこの国の権力者には怒りを覚えてたけど、ここの兵の話を聞いて更に怒りが募ってしまった。

どこまで人を馬鹿にしてるんだ。

人を虐げた報い、なんとしても思い知らせてやる!

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