機械仕掛けのペリカンはその身を削り彼らを救う
イシナギ_コウ
第1話:マネーレース
さんさんと輝く太陽の下、草木の生えぬ不毛な大地が広がっていた。岩々が地面から突き出し、その間を乾いた熱風が駆け抜けていく。
その中に一本の真っ白な線がのびていた。数十メートルにも及ぶその線の両端には、いくつもの色あせた屋根だけのテントが並んでいる。そのテントの下には、椅子に座っている人々が数十人。彼らは飲み物と数字の書かれた紙切れを持っていた。
「さあさあ!まもなく締め切りだよ!賭けるなら今だよ!」
首から箱型の機械さげた少女が声を張り上げる。その声に反応してテントの中の一人が彼女を呼ぶ。少女はすぐさまそちらに向い、箱型の機械のボタンを操作して数字の並んだ紙を出し、渡した。そのやり取りをしながら一通りテントを回ると、白い線の近くに止まっている一台の車の元にきて、
「最後周りました。もうそろそろですか?」
車の上には人が乗れる足場が増設されいて、男が双眼鏡を片手に白い線の向こう側を見ていた。
「ああ、そろそろのはずだ。おっ、見えた見えた」
車上の男はマイクを手にし、息を大きく吸い込む。
「さぁ皆さん!もう間もなく見えてきます!」
車後方のスピーカーが男の声を辺りに響かせる。
それを聞いた人々は、一斉に立ち上がり同じ方向を注視する。
白い線の向こう側、陽炎で揺らめくその先に土煙が上がっている。その中に鈍い光を放つ二つの影があった。
「さあラストスパート、先に来たのはだれだ!」」
シルエットがだんだん大きくなり、その姿がよりはっきりと見えてくる。
大きい、数十メートルはある。2つの影は四肢を持ち、前傾しながら地上数十メートルを高速で飛行していた。影の正体はいわゆる人型ロボットだった。
「先頭を走るのは4番ツインナイト!次に僅差で2番テイコウ!後続の機体が見えません。この2機の独走です!」
現在2機はせめぎあい、順位は頻繁に入れ替わっていた。
「さあ、2機はもう間もなく差し掛かります。この地域特有の地形、”岩柱”密集地帯!雨風によって岩の柔らかい部分が削れ落ち、残ったのは無数の剣山のような岩の柱!この地形は数多のレースパイロットを苦しめてきました。さあ二人はどうなるのか!」
ツインナイトとテイコウは岩柱密集地帯に入った。が、2機のスピードは全く落ちない。ツインナイトは鋭角な機動で、テイコウは最小限の滑らかな機動で岩柱の間を飛びぬけていく。2機はいつ岩柱に衝突してもおかしくない中で徐々に加速していった。一秒の世界からコンマ数秒の世界へシフトしていく。
2機はミスすることなく岩柱地帯を進んでいき、やがて視界に白い線、ゴールラインをとらえた。
しかし、2機が岩柱密集地帯を抜ける数十メートル手前でアクシデントが起こる。
テイコウが岩柱に接触してしまったのだ。機体側面に一瞬の接触。スピードが出ている分、簡単に体勢を崩し一時、機体のコントロールを失ってしまった。そのトラブルの間にツインナイトは順調に岩柱地帯を抜ける。テイコウは何とか体勢を戻すが、ツインナイトとの大きな差が生まれてしまっていた。結局その差は縮まることはなく2機はゴールラインを越える。
「確定しました!1着は4番ツインナイト。2着は2番テイコウです!」
ギャラリーの歓声と罵声が同時に場をにぎわす。
ゴールした2機は減速して脇に止まった。
優勝者である4番ツインナイトのパイロットにはギャラリー駆け寄って来て、称賛の言葉を贈られる。彼は機体をを降りながら笑顔でそれを受け取った。
一方、2番テイコウのパイロットはそそくさとその場を去っていった。
テイコウのパイロットの向かった先は空を隠すほどの大岩がそびえたつ薄暗い所であった。人気のないその場所で彼があたりを見回すと、岩陰から手をこまねく人影があった。
「いい仕事だった、ガラン」
ガランと呼ばれたテイコウのパイロットのその手に多額のお金が与えられる。彼は喜びで顔を緩ませ、わずかではあるが目に涙を浮かべていた。人影は次も頼むぞと一言残し、素早く岩陰に隠れ姿を消した。
「なるほどな。そういうことか!」
ガランの背後から声がした。腕組みをした男が額に血管を浮かびあがらせ立っている。ツインナイトのパイロットだった。
「ガラン!てめえわざと岩柱にぶつかっただろ!」
男がズカズカと近づいてくる。だいぶご立腹のようだ。
「俺らのレースに水を刺すようなことしやがってよお!お前ならあんなところでミスするはずないと思ったんだ。てめえにはヒトガタ乗りとしての誇りがないのか!プライドがないのか!」
ガランは男に胸ぐらをつかまれ足が宙に浮いたが、とくに気にする様子はなく札束をめくり高笑いしていた。
「なんだこいつ…」
怒号にも動じず、完全に自分の世界に入っているガランをツインナイトのパイロットは気味悪がり、手を放して距離をとった。
「次、同じ事したら許さないからな!」
男はそう吐き捨てて足早に去っていった。それでも相変わらずガランはお金に夢中だ。しばらくしてやっと彼は動き出し、満面の笑みのまま札束を革製の丈夫な袋につめていく。そして最後に袋の紐を強く縛り肩に担ぐと、
「よっしゃ!貯まった!ヒナこれで!」
ただ1人、"空"に向かって大声で叫んだ。
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