余はインコなり

千求 麻也

主人は文人

 家庭のペットとして飼われている余は、猫同様に放浪の心を秘めている。然るに、窓辺からその身を放ち、世界の果てまで飛翔することはできぬ。但し、主人が椅子やソファに座っていると、余はその膝の上に乗り、主人の言葉や動きを注意深く観察しておる。その中でも、余が特に気に留めるのは主人の筆記活動である。余がその筆記に興味を持ったのは、主人のあまりの集中力に感嘆せざるを得なかったためである。余はまるで、主人の筆記に取り憑かれたかのように、目を奪われていたのである。


 ある日、主人が再び筆記に没頭していた時、余は近づき、その筆記を覗き込んでみた。すると、その筆記には余がまだ知らない様々な世界が描かれていた。それは、森や河、山や海、そして雲や星々まで、ありとあらゆるものが詳細に描かれていたのである。余はその筆記に夢中になり、ついには主人にそれを習うことを決意した。余は、主人にその筆記の方法を教えてもらい、すぐにその技を習得した。


 以降、余は主人の筆記活動に常に協力的であり、その筆記に新しい風を吹き込んでいた。余は主人に感謝している。その筆記を通して、余は世界に新たな一面を見出し、そして、その筆記を通して余自身も新しい一面を開花することができたのである。


 余は鳥のように飛び立つことはできぬが、主人の筆記を通じて、世界を自由に飛翔することができたのである。

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