厭な本屋

羽弦トリス

厭な本屋

ここはある都市の千日団地内に店を構える、「広瀬書店」。

広瀬書店には、古本を主に取り扱っているが週刊誌もいくつか置いてある。

この店の主は、亡き父から引き継いだ広瀬浩二。彼は、大学を卒業と同じ年に父親が他界したのでそのまま、稼業を引き継いだ。28歳。

母親は3年前にガンで亡くなった。

広瀬には、妻もなければ、彼女もいない。

毎日、古本を読みながら時間を潰し、たまに店内に入る客の対応をする。

朝10時に店のシャッターを開ける。

基本的に広瀬書店は年中無休だ。

「浩二君、おはよう」

団地の自治会長のおじいさんだ。

「おはようございます」

「あの、あれだ、『吾妻鏡』あるかな?」

「ありますよ」

「じゃ、それ」

広瀬は広い店内から、『吾妻鏡』を簡単に見付けて、おじいさんに渡した。

「浩二君、いくら?」

「もう、ボロだから500円でいいです」

おじいさんはにこりとして、

「悪いねぇ。広瀬書店は団地の図書館だよ。はいっ、1000円札」

「ありがとうございます。500円のおつりです」

自治会長が去ると、広瀬は呟いた。

「ここが団地の図書館なら、団地は僕のオモチャ箱だ」


また、客が来た。金髪のロングヘアーの30代前半に見える女とその子供であろう女の子だ。

女は週刊誌売り場を覗き、女の子が、

「ママ、わたしにも『ぐりとぐら』買ってよ~」

「うるさいわね。あんたは、団地の公園で遊んでいればいいんだから」

「ママ、今日は寒いから、部屋で遊びたいよ」

「さくら、また、お仕置きされたいの?」

「……滑り台で遊んでくる」

この真冬に、さくらと言う女の子は団地の公園に1人で歩いて行った。

「お兄さん、これ」

母親はパチンコ雑誌を手に取り、レジに向かった。

「600円になります」

「そんなに高いの?」

「今のパチンコ雑誌はDVDが付録でありますんで」

「チッ!」

女は1人で団地内に向かった。

女の子は、店から遠くに見える公園でさくらが1人で遊んでいるのを確認して、古本の棚から1冊を選び、店の扉を施錠して公園へ向かった。


「さくらちゃん」

女の子はそう呼ばれると、

「あっ、本屋のお兄さん」

「今日はね、さくらちゃんにプレゼント」

「なになに~?」

「魔法の本だよ」

「魔法?」

「さくらちゃん、早く大きくなりたいだろ?」

「うん」

「ここのページに印を貼っておくから、毎日祈りなさい」

さくらは不思議そうに、

「どうなるの?」

「早く大きくなって、強い大人になれるよ」

「へぇ~、ありがとう」

「おまじないの言葉や印の貼ったページはひらがなで書いてあるから。まだ、1年生だっけ?」

「うん、1年生。だけど、ママが小学校行かないでいいって言うから学校行ってないの」

広瀬がさくらの長袖をめくった。

!!タバコを押し与えられた火傷の後や青アザが両腕にあった。


それから3日後。例の親子が店を訪れた。母親が、

「医学書ってない?」

「ありますよ。内容は?」

「子供の成長期について」

広瀬は広い店内から、『子供の成長期と反抗期』と言う本を取り出した。

「これで、いかがです?」

「いくら?」

「8500円になります」

「チッ!」

女は1万円出した。

「1500円のおつりです」

「さくら、行くよっ」

さくは、3日前より少し背が伸びてるように見える。


それから、1ヶ月後。

女が怯える様に書店に来た。

後ろには、赤く髪を染めた女がいた。身長は170cmだろうか?

「おい、ババア。週刊誌買えよ!」

「は、はい」

「それと、ぐりとぐら」

「はい」

レジでお会計をすると、

「1200円になります」

「じゃ、これで」

「300円のおつりです」

広瀬は髪を赤く染めた女にウィンクした。

すると、その女もウィンクした。

広瀬がさくらに渡した魔術本は効果てきめんだった。

一週間後、女が血相を変えて広瀬書店に現れた。

背中は血液で濡れていた。

「広瀬さん、助けて!うちのさくらがおかしいの。救急車呼んで!」

広瀬は電話しようとスマホを持ち、画面を見ていると、腹に強烈な痛みを感じた。

見るとサバイバルナイフが刺さっていた。

犯人を見ると、醜い顔になった、さくらであった。

「あんたが、変な本をわたしにくれなかったら、こんな顔にならなかったのに!ババアと同罪だわ」

さくらは、その母親と広瀬を滅多刺しにしてから、自分の喉にナイフを突き刺した。

3人とも死んだ。

広瀬書店は取り壊され、花壇になった。

毎年、冬はすいせんの花が咲いている。


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厭な本屋 羽弦トリス @September-0919

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