第31話 杉戸と柔剛の共闘

「おわ、ちゃ!」

 

 何かのホラー映画のように首だけが真後ろに回ってからの食いつき攻撃。



 柔剛はそれをなんとか避けるもその合間にカマキリはカマキリは体を柔剛に向け鎌を振ってきた。


 だが旋回に関してはそこまで速くないこともあり、慌てつつも柔剛が飛び退き鎌の一撃から逃れた。

 

 ぐいっと顎を拭う柔剛。額にはじんわりと汗が滲んでいた。


「カブト!」

「ギィ!」

 

 杉戸が促すとカブトがカマキリの頭上を飛び回った。鬱陶しそうに鎌を振るうも頭上の相手は捉えにくそうである。


「柔剛君! カブトに翻弄されてカマキリがイライラした隙にうまく大ぶりを誘って。その攻撃にうまく合わせる形で鎌のある前肢の付け根を狙うんだ!」

「難しいことを簡単に言ってくれるぜ」

「ご、ごめん。でもそれが一番確実だから」

「タイミングはお前が見ろ! 難しいからこそ杉戸お前を信頼するんだ。今の俺の飼い主なんだからな!」


 俯き気味に答える杉戸に向け柔剛が叫んだ。親指を立て、任せろと言わんばかりの笑顔を見せる。


「わ、わかったよ!」

 

 杉戸はカマキリを穴があかんばかりに観察した。一挙手一投足見逃さないように。


 そして――


「今だ柔剛君!」

「おう!」


 杉戸が柔剛にゴーをかける。迷いなく柔剛が飛び出す。すると条件反射的に柔剛に向けてカマキリが鎌を振った。大きく振りかぶっての縦の振りだった。


 それを柔剛は横にスライドしギリギリで避け――なんとそのままカマキリの前肢に飛びついた。


「付け根を狙うならこれだ! おらぁあぁあああああぁああ!」


 柔剛が狙ったのは飛びつき腕ひしぎ十字固めであった。カマキリは柔剛の体重が急に乗ったことでバランスが崩れ横に倒れてしまう。


 そして柔剛はカマキリの節を折るかのごとく思いっきり関節を決めた。


「~~~~~~~~ッ!」


 声なき悲鳴が聴こえてくるようであり、明らかにカマキリの様子が変わっていた。


「もういいよ! 柔剛君離れて!」

「お、おう……」


 柔剛が離れるとカマキリが起き上がり、かと思えば錯乱したが如く暴れだした。


「今のうちに逃げるんだ!」

「これで大丈夫なのかよ?」

「うん。カマキリは前肢の付け根に感覚器がある。それを攻撃されて混乱しているんだ。今なら逃げられる!」

「ギィ!」

「倒したかったところだけどな」

「無理は禁物だよ。命が一番大事なんだから」


 杉戸に促されカブトも一緒にその場から逃げ出した。カマキリが暴れる音が聞こえる。

 

 すると、突如カマキリのいた場所から何かが崩れ落ちるような音が聞こえてきた。


 カマキリの暴れる音も一瞬にして静かになる。


「お、おい杉戸。何かあったんじゃないか?」

「うん。でも、戻るのはちょっと、てあれ?」


――杉戸のレベルが3に上がりました。

――柔剛のレベルが2に上がりました。

――カブトのレベルが2に上がりました。


 杉戸の頭にナビからのメッセージが届いた。どうやらレベルがあがったらしい。


「レベルが上がった……ということはカマキリをやっつけた?」

「おお! マジでレベルが2に上がってるぜ」

「ギィ♪」


 柔剛が興奮気味に口にし、カブトも喜んでいた。


「これってあのカマキリを倒したってことだろう? ちょっとみてみようぜ」

「……そうだね。こうなったら」


 そして杉戸たちは再びカマキリがいた場所に戻ると、天井からの落ちてきたのか岩が大量に見つかった。


 カマキリの姿はなかったが、代わりに綺麗な石が一つ転がっていた。


「これ、色はちょっと違うけどあの綺麗な石だ」

「何だそれ? カマキリがそれになったのか?」

「よくわからないけど、化け物は倒すと消えて石が残るんだよ」

「マジか。わけわかんねぇことばっかだな」


 柔剛の言葉に杉戸は苦笑した。確かに冷静に考えれば意味がわからない。



 とは言え、これでカマキリが倒れた理由がわかった。ここで暴れた結果天井が崩落し巻き込まれたのだろう。


 にも関わらずなぜレベルがあがったのかといったところだが、そのきっかけを作ったのが柔剛だったのでレベルアップにつながったかもしれないと杉戸は考えた。


「ギィ~!」

  

 するとカブトが何かを知らせるように鳴いた。カブトは岩の転がっている一部分を飛んで示していた。



「あれ? これってもしかして……宝箱!?」


 どうやらカブトは岩に埋もれていた宝箱を見つけてくれたようだった――

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