第14話 世界を食らう異形

「そう…これはねー正当防衛だよ?」


「ちっ」


僕はそれを籠手で受け止める。


受け止めた腕に衝撃が走る…が。


…思ったより、威力がない。


「…君、僕を舐めているのか?」


一瞬であの魔物たちを滅ぼしたこのミナミとかいう獣神族の少女。この程度ではないはずだ。


「…いやー、割と本気だよー?」


本気?これが?


…まあいい今度はこちらから仕掛ける。


僕の戦闘スタイルは籠手を用いた格闘だ。獣神族の圧倒的な身体能力を利用したそれは魔王すらボコボコだ。


ミナミに肉薄し、殴りつける…一発目は彼女の持つ槌に阻まれるが…。


二発、三発、四発と拳を繰り出すと、だんだんこちらが勢いで圧倒するようになる。


そして。


「…おらあ!」


「…おー?」


拳で彼女が持つ槌を弾き飛ばす、そしてそのまま彼女の胴体に蹴りをぶち込む。


「うげー」


その蹴りをもろに受けたミナミは吹き飛んでいく。


…なんだかわからないけど、チャンスだ…畳みかけよう。


そう、思って、さらに踏み込もうとした瞬間。


「…!?」


これは…殺気!?


慌ててその場から飛び退くと、今までいた場所を高速でなにかが通過した。


あれは…弾丸か?


…ちっ、伏兵か、それもかなりの実力者。


「…だめだよー、おじさん、これは私の獲物―」


とミナミが立ち上がりながら言う。


獲物…だって。


「君、割と本気なんだよね?」


「そうだよー?」


それなら彼女は…大したことはない。


しかし、そう考えると…ミナミは接近戦が苦手?


「君、後衛型?」


そう解釈すれば、彼女の接近戦の弱さと異常なほどの魔法の威力というアンバランスさが理解できる。


「そうなのかなー?」


「…いや僕に聞かれても」


…いや、もしかして。


「生まれたばかり…か?」


獣神族は二種類存在する、他の生物と同じように親から生まれるのと…自然発生するものだ。


彼女は恐らく…後者かな。


「…まあ、そうだよー」


ほらね。


生まれたばかりで、戦闘経験が少ないのだろう。


…なら伏兵をなんとかすればこの場から撤退できるチャンスはまだある、か。


そう、僕が考えていた時だった。


「…ねぇ、ねぇ、あなた名前はー?」


…なんだ突然…まあいい。


「僕の名はバステトだよ」


「…ふーん、ねぇバステト?」


「?なんだい」


「もしかしてー?逃げられると思ってるー?」


「…だったらなんだい?」


伏兵をどうにかできれば…だけど。


「ねぇ、知ってるー?」


「さっきからなんだよ」


「私ねー?最強なんだよ?」


「…は?」


コイツ何を言って…。


そう、僕が思った瞬間。彼女は言う。


「モード『世界を喰らう者』起動」




―ゴバッ!




突如彼女から黒い何かが放出される。


「…なんだ!?」


黒い何かはたちまち僕の視界を黒く埋め尽くす。


「くっ!?」


「あー、あー、アー、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


なん…だ?


最初に聞こえた声はミナミのものだ。


しかしその後、聞こえてきたのは、まるで…悪魔のような声。


視界を埋め尽くす黒が晴れる…そこに居たの…異形。




全長は10mt近く全身が黒くのっぺりとしていて細長い胴体に4対の足があり頭部は不完全な球体でそこに多数の目があり背中からは歪な2対の腕が伸び




「…ひ、ひい」


そこに可憐な獣神族の少女の面影はなく。だたただそこにこの世の物とは思えない狂気の異形がいた。


「私ハネー?最強ナンダヨ?」


異形は発する、そのおぞましい容姿に見合った声で。


そして、無数の目玉がこちらを見据える。


その瞬間、僕の意識は…










モード『世界を食らう者』。


ミナミが主神と並ぶと称される要因。


文字通り世界を喰らいつくすことのできる力。


そのモードは常人がその姿を見れば発狂するおぞましき黒き異形の獣となる。












おおー?


なんか私すごいことになってるよー?


…ふむ、これはこれでなんちゃら神話の上位存在みたいでかっこいいかなー?


でも、せっかくケモ耳美少女になったのに本気を出したらこんな姿になるっていうのはなー?


…うーんでもケモ耳美少女が突然、得体のしれない異形になる…うん、ちょっと浪漫があるねー?


「私ハネー?最強ナンダヨ?」


あーれ、でもなんかお腹がすいてきたなー?


あー、食べたいなー、人も森も山も海も砂漠も過去も未来も因果も世界も食べたいなー、食べたいなー


食べたいなー


食べたいなー


食べちゃうー?


食べちゃうー?


食ヴェチャウー?


「…弾丸よ、ミーロスチよ」


アレー、コレハオジサンノコエー?






















「…お?」


眼前に広がるのは…青い空、雲一つないねー?


うん?これ私、地面に寝そべってる?


ゆっくりと起き上がる。


あれー?私はなんでこんなところで寝ていたんだー?


体は…いつものケモ耳美少女だねー。


???


「…起きたか」


「あれ?おじさん」


私の横にはいつの間にかアンドレイがいた。そしてなぜか彼は肩に浅黒い肌をした猫耳の生えた少年を担いでいた。


あの子は…たしかバステト…だっけ?


…あー!?


思い出した、私、本気を出そうとして―?


…どうなったんだっけ?


「…お前は文字通り、世界を食らおうとしていたんだ…まさに北欧神話の怪物、フェンリルのごとくな」


「…どゆことー?」


うーん、本気をだして、その後、何が起きたか…全く覚えてないや。


…いや、でもなんか強烈な飢餓感を覚えたような気がするなー?


「…とにかく、今のお前ではあの力は制御できるものではない、しばらくは封印しておけ」


「…なんかよくわかないけど、わかったー?」


ホントによくわからないけど、まあ、年長者のアドバイスはしっかり聞こう。


「…スタンピードは解決した…さっさとラルトへ戻るぞ」


「はーい」


というわけで、なんかよくわからないけど、解決したらしいから、帰還しよー。


そうして私はアンドレイと並んで、ラルトへ向け歩き出した。


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