第48話 概念干渉

「最初に言っとくがお前はかなり運がいい。」


「……へ?」


 師団長たちについての説明をすると直前に言っていたために、レイの発言の意図が幸には一瞬理解できなかった。


「一応俺はシーマから大体の場所が伝えられてたから早めについたが、その前に他の師団長と連戦になる可能性も十分にあった。1番手に手負いのゴア、2番手に俺が来たのはマジのガチでお前の幸運だ。」


「あの怪獣ってやっぱり……」


「あぁ、こっちの世界に来る前に俺らの世界で結構消耗させた。万全の状態なら死んでたかもな。」


「ハハ……」


 師団長を一人倒したことで幾分か自信がついていた幸だったが、相手の方が連戦だった事実を聞いたことで諦念を含んだ苦笑いをするのが精いっぱいだった。


(……ん? ちょっと待てよ……)


 レイの話の中に一つだけ腑に落ちない点があったため、話の途中であったが幸はレイに聞き返した。


「あの、すみません。」


「ん?」


「さっき、シーマさんから場所を伝えられてたって言ってましたよね。」


「……それがどうかしたのか?」


「シーマさんって基本こっちの世界にいるはずなのに、なんでレイさんはシーマさんと接触出来たんですか?」


 それを聞いたレイはシーマに向き直って問いただした。


「……シーマ、お前まだ教えてなかったのか。」


「……すみません。私からは教えられないみたいなので……」


「……まぁしゃーないか。概念干渉ヴェレンシアだけは覚えさせたくないだろうからな。」


「ヴェレ……ってなんですか?」


「あー……いや、むしろいい機会だな。少し話は逸れるが知っておいて損はない。」


 そう言うとレイは説明を始めた。


概念干渉ヴェレンシアっつーのは簡単に言えば奥義……のようなものだ。厳密にはちょっと違う気もするが。」


「えっと……普通の魔法とはどこが違うんですか?」


「普段使っている魔法の効果を拡張して、概念単位で発動させたものが概念干渉ヴェレンシアなんだ。」


「概念単位って……」


「お察しの通り、使い方によってはとんでもない効力を発揮する。それこそ戦況が一気にひっくり返っちまうほどにな。」


「………………」


 一層スケールの大きくなった話に幸は絶句するしかなかった。


「その分普通の魔法より莫大な魔力を消費するが、効果を考えれば大いにプラスだろう。さっきの答えだが、シーマは『情報』っつー概念に干渉して転移の魔法を使うことで俺に位置を知らせたんだ。」


「なるほど……」


「んでここからが本題。概念干渉ヴェレンシアはかなりの高等技術だから出来る奴は限られるんだが、師団長以上なら使える奴はゴロゴロいる。お前が戦ったロウもその一人だ。」


「………………」


「ただ俺でさえも誰が使えるか完全には把握していない。多くの場合概念干渉ヴェレンシアは知覚することすら困難だからな。これから師団長について説明はするが、俺が伝えてないことも十分に起こりうると思っておいた方がいい。」


「……概念干渉ヴェレンシアの対策は」


「ねぇよ、んなもん。」


 食い気味に幸の質問は却下される。


「えぇ……」


「普通に考えりゃわかんだろ。お前概念に逆らえるのか?」


「いや、多分無理ですけど……」


「……可能性は低いが唯一対抗策として考えられるのはこっちも概念干渉ヴェレンシアを発動するくらいだな。干渉する概念が違うことが大半だからほぼ意味ねーけど。」


「……了解です。」


「まぁお前の成長性を加味すれば戦っていくうちに出来るようになるかもしれんから今は相手の概念干渉ヴェレンシアに吞まれないようにだけ注意しとけ。概念干渉ヴェレンシアについてはこんなもんでいいだろ。ほんじゃ師団長のクソ野郎どもを紹介……いや、場所を移した方がいいか。」


「…………?」


 突然説明を中断したレイの意図が幸には分からなかった。


「悪い。とりあえず話はこんなとこにしておこう。シーマ、一回俺たち三人を警視庁の本部に送ってくれ。」


「あっなるほど! いろいろ情報共有した方がやりやすいですもんね。」


「それもあるが……警察と自衛隊の方々には一個だけデカい仕事を任せにゃならん。」


「えっ? それってどういう……」


「まぁその話は最後だ。緊急で伝えなきゃいけないこともいくつかある。」


(……一体何をやらせるつもりなんだ?)


 意味深な『デカい仕事』という発言。


 魔力を持たない人間たちには支援が精一杯だろうと考えていた幸はその発言に意表を突かれたとともに自分でもあり得ないと思うほど突飛な推測を立てていた。


(まさか、まさかな。さすがにそんなこと……)


「……それではすぐに転移しましょう。二人ともこちらへ。」


 疑問が胸に残りつつもシーマに促されるままに幸はシーマの手を取り、対策本部の警視庁まで転移した。





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