Behind the scenes ~Before the dual wars~

「いいねぇ。まさかシーマがこんな役になるとは。」


「台本にはあったんですか?」


「シーマにはもう台本なんてないよ。ほとんど役目は終えたと思ってたからね。でも、これはこれでアツいね!」


「……楽しんでいるようで何よりです。そろそろ彼らの準備を始めますか?」


「そうだね。もう集まってる?」


「既に待機させてあります。」


「仕事が早くて助かるよ。それじゃ行こうか。」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「やぁやぁ待たせたね、諸君!」


 暗赤色を基調とした部屋の真ん中に大きな白い円卓が一つ。

 部屋の外縁にはランタンのような照明器具がいくつか設置されており、部屋全体の仄暗い雰囲気をさらに強調させていた。


 8人の師団長と騎士団長が円卓を囲んで男の到着を待っていた。


「何をもたもたしていたんだ。」


「いやいや面目ない。ちょっといいシーンだったものでね。ついつい見入ってしまった。」


「……まぁいい。それで、今回の作戦だが……」


「ん? ちょっと待って。師団長は9人じゃないの? 1人足りなくない?」


「この部屋には収まらないのでな。外に待機させている。」


「へぇ~新入りさんか。抜けたのは……」


「ロロとカーシバだ。」


「あー、二人とも年だったからね。強いけど。そんじゃ……君も新人さんか!」


「……まぁな。」


「おほほ~適度に生意気そうでいいね!」


「……そんなことよりよ、ご主人サマ。俺は『炎の英雄』と戦えるっつー話だから来たのに、よくよく聞いたら似ても似つかないニセモノらしいじゃねぇか。」


「え”っ、いやまぁ確かに同一人物じゃないけどちゃんと本物のハズだよ!?」


「どうだかな……ロウにも瞬殺されたんだぜ?」


「それは聞き捨てならないな。まるで私が本物には勝ったらおかしいというような言い回しじゃないか。」


「まんまその通りだぜ。わかってんじゃねぇか。」


「……少し、下民には教育が必要かもな。」


「望むところだ。別に一人や二人減ったところで支障はねぇだろうしよォ……」


 二人の殺気によって場に張り詰めた雰囲気が満ちていく。


「まぁまぁまぁまぁ仲良くしましょう? ね? ね?」


 二人をなだめようと一人の女が会話に割って入る。


「ライア……」


「あんたには悪いが、仲良くする必要は感じないんでね。」


「おい! やめてお……」


 ロウは必死に制止しようとしたが、それよりも早く女は話し始めた。


「そう……それなら仕方ないわね。。」


「…………!!」


 今度は女から殺気が放たれる。先刻の二人の殺気よりさらに重々しく、鋭い殺気だった。


「一人や二人くらいならいいんでしょう? それなら、二人ともっていう手も……」


「ライア、止めておけ。」


「あら、優しいのね。アレン。」


「可能な限り戦力を減らしたくないだけだ。」


「ふぅん、まぁいいわ。それじゃ、続きをお願い。監督さん。」


「……マジで今後はこういうの無しで頼みますよ!!」


「すまなかった。近頃は殊に血気盛んなようでな。」


「ったく……あと、新人君には言っとくけどマジのガチで本物だから! ロウと戦ってからめちゃくちゃ成長してるからね!?」


「……そうっすか。まぁ楽しみにしておきますよ。」


「はぁ~しんど。とりあえず作戦の確認だけちゃっちゃと済ませるよ!」


 そう言って男はバサッと東京都の地図を円卓へ広げて見せた。


「当日の転移地点は赤い印の場所。目的地は青丸で囲んだここだ。」


「『国会議事堂』だろう?」


「そ! まぁでもこれは建前だ。『炎の英雄』さえ殺してしまえば実質君たちの勝ちだし、どうせ君たちはそっち狙うでしょ。」


「ふっ……当たり前だろう。何せ我らの宿敵なのだから。」


「すみません、監督に一個質問したいんですけど……」


「ん? どうしたの?」


「その子って今現在はどのくらいの強さなんですか? なんか誰も教えてくれなくて……」


「あぁ、君たちには教えないよ。こっちだけが手札を知っているなんて不公平だろう?」


「あー、確かに。そっちの方が面白そうですね~」


「でしょでしょ! だからその辺は君たちもお楽しみってわけだ。話を戻すけど、各人自分の転移先は把握できてるってことで大丈夫?」


 場に沈黙が走る。

 それが肯定の意を示していることは全員の表情から容易に見て取れた。


「おっけ。あっ、外の新人さんにも一応伝えておいてね。」


「了解した。転移まではあとどれくらいだ?」


「大体1リア(人間世界換算で15分ほど)ぐらいかな。ちょっとくらい遅れても全然いいけど。」


「そうか。各自、支度しろ。転移石を忘れるなよ。ヴォル、ゴアに伝えてきてくれるか?」


「いいですよ。まぁあいつはもう支度まで済ませてるかもしれませんが。」


「俺もそう思うが一応な。よし、それでは1リア後、絶門に集合だ。」


 騎士団長がそう言うと師団長は席を立って部屋を出ていこうとする。


 しかし、その時一人の男が部屋へ息を切らしながら駆け込んできた。


「きっ……緊急事態です!!」


 男は大声でそう叫んだ。


「何事だ。」


「たった今、廷内にて『継火つぎびの戦士』の襲撃が確認されました!!」


「「「「「!!!!」」」」」


 その名が出された瞬間、部屋に戦慄が走った。


「まだ……残ってたのか……!」


「くそっ、なんでこんな時に……!」

(しかも廷内にいきなり現れたのなら逆転移の可能性が高い。 偶然か? いや、こんなタイミング、狙いすましてなければあり得ない!)


「対応はどうなっている。」


「現在、一人の戦士とゴアさんが交戦中で、他の戦士たちは未だ手に負えず、進軍され続けている状況です!」


「……おそらく、これだけでは済まない。直に反乱軍が一斉にやってくるだろう。」


「どうします、カントクさん。俺たちも戦いに出ようか?」


「……くっ!!」


 監督と呼ばれた男は酷く悔しがっていた。自分の完璧とも思われた計画が一気に瓦解するかもしれないという窮地に立たされていたからだ。


(なぜだ、どうやって! シーマなのか? いや、あいつの動きは四六時中見張っていた。変なことをすればすぐに……)


 そこで初めて男は気づいた。一つだけシーマに不自然な動きがあったことを。


(……まさか!!)


「あの女ァ……!!」


 こぶしを握り締め男はシーマへの怒りをあらわにする。


(変だとは思っていた。たかが炎を飛ばしたくらいであそこまで魔力を使うことなどありえない。……)


「おーい、結局どうするよ。俺たちも出るってことでいいの?」


「……いや、いい。君たちは計画通り1リア後に絶門に集合しろ。」


「ゴアと戦っている奴はどうする。」


「ロロを向かわせる。まだ近くにはいるんだろう?」


「……まぁこちらの世界なら問題はないだろう。カーシバも呼ぶか?」


「頼む。こっちは俺たちで何とかする。最悪、俺が出れば負けることはない。」


「……そうか。それなら我らは絶門へ行くとしよう。」


「あぁ、すまない。もう一つ頼まれてくれないか。」


「……?」


「この中の誰でもいい。シーマを殺してきてくれ。あいつはもう生かしておく必要はない。」


「……そうか。了解した。」


「ははっ! カントクさんぶちぎれてるじゃん。」


「まぁ理解できないこともない。早くいくぞ、レイ。」


「へいへい。」


 その他の師団長たちも指示を聞いて部屋の外へ出ていく。

 やがて部屋には男とその秘書の二人が取り残された。


「やはりシーマの仕業でしょうか。」


「……多分ね。ここまでコケにされたのは初めてだ。」


「……私が殺しましょうか。」


「いや、いい。作品の流れが崩れる。絶対にこの作品は成功させてやる。俄然やる気になってきたよ……!」


「それでは私は戦の準備を整えてまいります。」


「……頼んだよ。」


 男がそう言うと女は静かに歩いて部屋を出ていった。

 そうして部屋には一人の男だけが残された。


 男を包む赤黒い部屋はまるで憎悪と殺意に満ち溢れた今の男の心をそのまま映し出しているようだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 読んでいただきありがとうございました!!


 もし少しでも面白いと思っていただけたら応援や星、フォローをしていただけると大変励みになります!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る