目立たない本屋さん

ノツノノ

目立たない本屋さん

ここは目立たない本屋。

いつ見てもお客さんはいない。


「今日も、誰も来ん…」


顔が少し怖いお爺さんがこの本屋の店主。

ごく稀に入ってくるお客さんは、店主の顔を見てビックリしてしまう。それほど怖い顔なのだ。


「やっぱり、辞めた方がええかな」


誤解されがちではあるが、店主は恐ろしい人ではない。

どんな本を探しているか聞けば答えてくれるし、オススメも教えてくれる。

過去には、ただ会話をしに来ていた人も居た。


「今、人気な本を仕入れても、人が入らな意味がなか」


昔ながらの小説のみならず、最近の本、つまり若者向けの本も取り扱っている。

まぁ、昔の本が多少優遇されているが。


「後2時間か…誰か来たら続けて、誰も来んかったら、もう辞めにするか…」


本屋は20年続いてる。

だが、もう終わりが近い。


店主も今年で75歳、体にもガタがで始め若い頃の様には動けない。

本を片付けたり掃除も一苦労。本を求めてお客さんが来るのなら、と店主も本屋を続けていたが、来ないならもう辞めるかと思い始めた。


年寄り仲間から言われていたのだ。

そろそろ辞めてもいいんじゃないか?と。


もちろん、店主を心配しての一言だった。

買いにくる客も居ない、ただレジの近くに置いてある椅子に座りながら本を読み待ち続ける店主を。


そう言われても店主は辞めなかった。

今となっては店主自身にも何故辞めなかったのかわからない、不思議と後悔は感じない。


「雨か…」


外を見ると雨が降り始めていた。


「後、30分」


雨の影響もあり普段より暗い、こうなってはお客さんも入らないだろう。

だが店主は最後まで待ち続ける。


カタ…


「おや?」


いつもなら気にならない程度の物音、だが今回は気になってしまった。


「おっと!なんじゃ猫か」


扉を開けると黒猫がするりと入り込んできた。


「はぁ、仕方あるまいな、止むまでならよい。ただ、本は濡らさん様に」


にゃ〜


次の日、本屋は開いていた。

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