第7話

 いとこに電話をした。


 少しばかりいつもと違う声が鳴る。

もしもし、っと、響きがワンオクターブ違う声がする。


 ファンが来た、とそう告げると。


 東京に流出したデータは、写真も音声も全てこちらが殺したはずなんだけどな。


と、何十回も何百回も繰り返し俺に伝えてきた言葉を、発する。

声を変え音を変え、響きを変え、この俺を説得したこの声が、今は無性に欲しい。


ネガなんだ。


そう答える。


沈黙が。時が止まる。


そういうことか。


何が起きた?


実は。


出し子がひとりやられた。


え。


出し子。振り込め詐欺において、最も下っ端の構成員。


なんか寝てる間にさぁ、俺のスーツまさぐったらしくて。


いつも財布に入れているお前のネガだけ、抜き取られてた。


は。


思わず声が出る。


お前自分で全部捨てたって、関係者は全員殺したって言っただろ。


これしか残ってないんだ。

1つぐらいは思い出として、取っておきたくて。


組の連中は。


気づいてない。


どうしようもなく、馬鹿だな。俺たちは。


声を出す。


ま、流出したものはしゃーないから、ムーチャスプレーゴ、て感じで、ファンに接しとけばいいだろ。


自信がない。


なんで。


誰も自分のことを覚えていたいと思ったら、23年ぶりに言われたんだぞ。

あなたのファンです、って。

怖いにもほどがあるだろ。


どっかで、例えば、東京のワークショップとかで。こっちきてなかった?


それはない。


あ。でも、映画には出たな、大泉の撮影所で。

姿映ってた。もう、16年も前だけど。


ため息が聞こえる。


お前、なんで。

あんなにカメラから逃げ回っていたのにそうしちゃうかなぁ。


ひと息入れて、こう告げる。


ま、俺もカメラから逃げ回ってるけど、監視カメラには残ってんだろうなぁ。あちこち監視カメラだらけだし、この世の中。


と、声色を変えた。


お前監視カメラに向かってピースとかしないよな?


こちらも同じく、声色を変えた。


しないしない。


ぐるっ、と、地声に戻る。


そもそもどうやって逃げ回ってるんだよ。


こちらも地声に戻して、聞いてみる。


コツがあんの、コツが。

そろそろ切るぞ。


電話は、無情にも、途切れた。

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