本屋。
Y.T
第1話 本屋
——あ? なんだここは?
男は困惑する。
目覚めた場所が眠りについた場所とは違うからだ。もっとも、見知った場所ではある。あまり行く事はないが。
背の高い壁の様な本棚に囲まれ、その内に背の低い本棚が規則正しく並んでいる。
唯一本棚でないのは男の背が向くガラス戸だ。だが、外が見えない。暗黒だ。
異様なのはこの空間だけではない。
男自身である。
横たわっていたはずの自分が、目を覚ました時には立っていた。眠ったまま此処に来たとでもいうのか。
男はガラス戸へ進み、自動ドアが開くのを待つ。上部のセンサーと思わしき物が点灯するが、一向に開く様子はない。
「——どれだけ待っても開きませんよ」
自分に掛けられたであろう、その声に、男は反応した。振り向くとそこには、白いブラウスに黒いエプロンをした女が一人、立っている。
「開かない? つーか。ココはどこだ?」
「本屋です」
——本屋?
確かに此処は本屋なのだろう。だが、それにしては華がない。男の知る本屋は本棚の横にも売れ筋の本などが積み重なり、オレンジだとか黄緑だとか黄色だとかが使われた、目立つポップなどがあったはずだ。だが、本があるのは本棚のみ。子供の頃一度だけ行った図書館の方が、もう少し派手だった事を覚えている。
本もおかしい。背表紙に、何も書かれていない。背幅にばらつきはあるものの、タイトルや著者が書かれていないのだ。
「……あんた、一人か? 開かないなら、俺はどうすれば良い? あんたが楽しませてくれるなら、もうしばらくココに居ても良いけどよ?」
女の服装は地味だ。だが、エプロンの裾から生脚がのぞいている。膝の質感を見るにタイツなどは穿いていないだろう。それも男の知る本屋には、似つかわしくない。
男の視線が女の脚と、その付け根であるエプロンの窪みを上下した。遠慮と云うものをまるで知らないかの様な振る舞いである。
男が近づくも女はその表情を変えず微笑したままだ。それが妙に艶かしく、そして、不気味に感じる。
「それも宜しいですが、本の代金が上がりますよ?」
「代金?」
「ええ。本を購入していただかない限り、そのドアは開きません」
「ええーと、つまり、追加オプション……って事か?」
「そう受け取ってもらっても構いません」
「良いぜ? どんなサービスしてくれんだ?」
「どんなものでも。ただし、必ず本は購入して頂きます」
「わかったわかった」
先ずは衣服を脱がさず女を弄び、そのまま及ぶ。果てた後、直ぐに戻った。確かに自分は若いが、それでもこんなに早く戻った事はない。女の舌でそれを洗い、女を脱がし、犯す。女は鳴かず、それでも息が乱れた。
また、直ぐに戻る。
「——続けますか?」
「……ああ」
男は、情欲の限りを尽くした——。
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