第89話 つまり、案内と言う名のデートかもしれないってこと

 そこからはフルート公爵領の話に移った。ラギオスはフレアちゃんと夫人の膝の上を行き来している。二人ともとっても楽しそうだ。これで動物を飼うという考え方が芽生えてくれるといいな。


 そうなれば、召喚スキルで召喚した魔法生物を飼うという発想にも、抵抗感がなくなるはずである。それまでにはまだ時間がかかりそうだけどね。


「まずは、お礼を言わねばなりません。道中で賊を退治して下さったそうですね。本当にありがとうございます。本来なら、我が公爵家がやらなければならないところでしたのに」

「気にする必要はない。ちょうど通りかかっただけだ。フルート公爵家にはなんの非もないと判断している」


 それを聞いてホッとした表情になる公爵。これで言質が取れたはずだ。他の貴族がなんと言おうとも、レナードお兄様からそう言われましたで押し通すことができるのだ。


「ありがとうございます。同じようなことが起きないように、街道の監視の目を強くしておこうと思います」

「その方がいいだろう。また妙なことを考える者が現れるかもしれないからね」


 ん? なんだ、今の発言。なんだか引っかかるな。まるでだれかが背後で何かを画策しているような。

 フルート公爵の顔が引き締まっているみたいだし、何かあるのは間違いなさそうだ。だがこれ以上何も言わないところをみると、俺たちにはかかわらせたくないのだろう。それならその方針に従うだけである。ルーファス、変なことに頭を突っ込まない。


 お茶の時間が終わると、フレアちゃんが屋敷内を俺に案内してくれることになった。これも俺とフレアちゃんとの関係を良好なものにするための布石なのだろう。そんなことをしなくても、国王陛下の命令ならだれとでも結婚するつもりではあるのだが。

 この国では政略結婚が基本だからね。俺もその習慣に従うだけである。


 予定では俺が屋敷内を見学している間に、レナードお兄様とフルート公爵が俺たちには聞かせられない話をすることになっている。

 きっとあの盗賊の話もするんだろうな。ちょっと気になるが仕方なし。フレアちゃんとの時間を過ごすことにしよう。


「こちらが中庭になりますわ」

「たくさん花が咲いていて、とてもキレイだね」

「私も手伝っておりますのよ」

「それは偉いね」


 ほめてあげるとうれしそうにほほ笑んだ。無邪気でかわいい。が、残念ながらこちらの精神年齢が高すぎる。娘がいるとこんな感じなんだろうな、としか思うことができなかった。フレアちゃんには申し訳ない。


 次に連れて行かれたのは城内にある訓練場だった。砦のような見た目は正しい解釈だったようで、室内に立派な訓練場が設けられていた。もちろん床はむき出しの地面だ。レナードお兄様が見たら喜びそうだな。

 そこでは今も目の前で騎士たちの訓練が行われている。


「私もここで剣術の訓練を行っておりますのよ」

「それはすごい。俺もやってるけど、どうも苦手でね。全然上達しないんだ。才能がないんだろうな」

「そんなことはありませんわ。毎日、練習すれば、きっとお上手になりますわよ」


 どうやらフレアちゃんに気を遣わせてしまったようである。励まされてしまった。それにしても、フレアちゃんも剣術の訓練をするんだ。やっぱり辺境に近いので、戦いに備えているのかな? そんなに危機が迫っているような空気は感じなかったんだけど。


「フレア嬢は火属性魔法スキルを継承したそうだね。どんな魔法が使えるの?」

「えっと、まだファイヤーボールしか使えませんわ」

「いいなぁ。俺はなんの魔法も使えないからね」


 ちょっと暗い顔になったフレアちゃんの顔が一気に驚きの顔に変わった。暗い顔はナシだぜ。自虐ネタに走ったとしても、女の子にそんな顔をさせるわけにはいかないのだ。笑っていた方がずっとよろしい。


「どうしてですか?」

「召喚スキルを継承しても、なんの魔法も使えないんだよ。その代わり、やろうと思えば召喚した魔法生物たちがどんな魔法でも使ってくれるけどね」

「どんな魔法でも……」


 再び大きくなる、フレアちゃんのアンバーの瞳。表情がコロコロ変わって、見ていて飽きないな。これが恋……にはならないけどね。残念ながら。今のところは面白い止まりである。


「ちょっと試してみる? フレア嬢の魔法も見てみたいな」

「分かりましたわ。こちらに魔法用の的がありますわ」


 フレアちゃんに連れて行かれたのは、訓練場の隣の部屋だった。おおう、こっちは魔法訓練専用になっているのか。すばらしいな。今も魔法の訓練をしているところだった。


「少し使わせてもらいますわ」

「もちろんでございます、お嬢様」


 スッと場所があいた。だれも止める人がいなかったところをみると、どうやらこうなる可能性も考慮されていたみたいだな。

 もちろん何かあったときのために、周囲には騎士や魔導師たちが控えている。


「それでは、えっと……」

「先に俺からやろう」


 レディーファーストが基本だが、この場合は俺からの方がいいだろう。なぜならフレアちゃんが言いよどんだから。身分ファーストでいこうと思う。

 さて、ラギオスとモグラン、どっちがいいかな?


 モグランは活躍する場面があった。それに対してラギオスは背中を借りただけである。それだけでも十分に役に立ったのだが、ラギオスからすると”もっとやれたのに”と思っているかもしれない。ここはラギオスだな。


「ラギオスの得意な魔法は何?」

『全部、でしょうか?』

「そっか~」


 さすがはレッドアイズ・ホワイトフェザードラゴン。俺の考えた最強のドラゴンなだけはあるな。

 ……まさか本当に呼び出せるとは思ってなかったからな~。当時の自分をビンタしたいところである。目を覚ませってね。

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