第84話 つまり、レナードお兄様を怒らせると怖いってこと
「ルーファス様、ご無事でしたか」
「ルーファス様の身に何かあれば、私は……」
「ごめんごめん! この通り大丈夫だから! だから泣くのはやめて!」
ガックリと肩を落としたバルトとレイを全力で慰める。一緒に連れて行くべきだった。次からは気をつけよう。俺はそう心に決めた。
「ご無事でしたか、第三王子殿下。突然走って行かれては危険です」
「そうなんだけど、ジッとしていられなくてさ」
「ジッと座って結果を待つのも、上に立つ者としての務めですよ」
俺を護衛していた騎士からもそうたしなめられた。
なるほど、確かにそうかもしれないなと思っていると、先ほどと変わらぬ笑顔のレナードお兄様がこちらへやってきた。
「なんだか勝手にいい感じにまとめようとしているみたいだけど、ダメだからね? ルーファス、俺の指示に従うって言ってたよね?」
「違うんです、違うんですよお兄様。これには深いわけがありまして」
「ほう、では聞こうか」
こうして俺はレナードお兄様に申し開きをした。もちろんレナードお兄様が盗賊の一味を無慈悲に惨殺するところまで含めて。
それを聞いたレナードお兄様は口元をゆがめて苦笑いしていた。
「どうやらルーファスは俺の本当の実力を知らないみたいだね。それもそうか。訓練場で一緒に鍛錬しているところしか見たことがなかったね」
何かに納得したかのように何度もうなずいているお兄様。その笑顔はどこか
「ルーファス、この程度の盗賊なら、殺すまでもなく無力化することができるよ。そう、ひとにらみでもすればね」
「そ、そうでしたか。いや~、知らなかったな~」
なんだこの背中に流れる滝のような汗は。体の芯からものすごい寒気がするのに、それとは反対に汗が止まらない。恐ろしいとはこのことか。
ラギオスは……何も感じていないのか、とっても涼しい顔をしているな。ラギオスにとってはこの程度の殺気は気にするほどでもないのかもしれない。
本当に恐ろしいのはレナードお兄様ではなくラギオスか。
「分かってもらえたようでうれしいよ。次からは勝手な行動を取らないように。次は、ないからね?」
「ひゃ、ひゃい!」
こええ! そしてどうしてラギオスとモグランは俺をかばってくれないのか。国王陛下のときはすぐに戦闘モードになるのに。もしかして、国王陛下のことが嫌いなのかな? いや、そんなはずはないか。ないよね?
盗賊を捕縛した俺たちは、今朝出発した宿場町まで戻ることになった。この位置からなら、戻った方が早いとの判断である。
死者こそ出なかったものの、負傷者が何人もいるようだ。その人たちも安全に連れて行かなければならないので、当然と言えば当然か。
盗賊はもういないと思われるが、それでも警戒しながら進む。移動速度はかなり遅く、昼食の時間までには戻ることができなかった。
少し開けた場所に出ると、レナードお兄様が振り返り進行を止めた。
「この辺りで昼食を食べよう。さすがにこれ以上、休憩なしで進むわけにはいかない」
「了解しました。ただちに準備を始めます!」
キビキビと動き出す騎士たち。どうやら荷馬車には、こんなこともあろうかと、野営のセットが積み込まれていたようである。簡易的なかまどが作られ、その間にテーブルやイスが用意されてゆく。
しかし残念ながら、全員分はないようである。俺たちは当然のことながらそこへ座ることができるが、他の人たちは何もないところに座ることになる。ケガ人もいることだし、何か座るところがあった方がいいだろう。
だが運が悪いことに、近くにいい感じの倒木はなかった。だったら作ればいいじゃない。
さすがに木を切り倒すのはまずいと思ったので、モグランにお願いすることにした。
「モグラン、地面を隆起させて、簡単なイスを作ってよ」
『任せるんだな』
フンスと鼻から息を出すと、グルリと火を囲むように石のベンチができあがった。
どんな魔法の使い方? と思いつつも、口には出さないでおく。魔法をまったく使えない俺が四の五の言う権利はないのだ。
つまり、俺は魔法使いカースト最下位ってこと。
「器用だな、ルーファス」
「私じゃなくて、モグランが優秀なんですよ。テーブルもあった方がいいですよね?」
「そうだな。お願いできるか?」
「もちろんですよ。モグラン、いい感じのテーブルもお願い」
『合点承知の助なんだな』
フンスと鼻から息を出すと、ベンチの近くにいい感じの石で作られたテーブルができた。どうやら土に関することなら、どんなものでも作り出せるようだ。すごく、器用です。
それにしても、その言葉づかいはどこから来たんだ? 俺か? 俺なのか?
「変わったしゃべり方をするが、モグランは優秀だな。騎士団にぜひ欲しいところだ」
「あげませんからね」
「分かってるって。それならルーファスを一緒に連れて行けば……」
「行きませんからね」
今回のフルート公爵領への視察は召喚スキルの知名度アップという目的があるからこそ、行っているのだ。こちらになんのメリットもないのに、戦場や魔物討伐に参加するつもりは毛頭ない。
俺が秒で返した返事に口をとがらせたレナードお兄様。そんな顔をしてもダメなものはダメですからね。どうしてお母様と同じような顔をするんだ。遺伝なのか?
でもそれは女性がやるからこそ効果があるのであって、男性がやるのはちょっと……いや、かなりウザい。
昼食の準備は着々と進み、温かいシチューが完成しつつあった。野外調理と言えばカレーが定番なのだが、シチューでも問題なし。
そう言えばカレーを食べたことがないな。思い出したらなんだか無性に食べたくなってきたぞ。今度、テツジンにお願いしよう。きっと最高にうまいカレーを作ってくれるはずだ。今から楽しみになってきたぞ。
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