第83話 つまり、どこかで見た光景ってこと

 そんな不安の中でも、俺を乗せた馬車は順調に先へと進み、本日、最初の休憩となった。

 おかしいな? 確か予定表ではもっと前に休憩をするはずだったのに。そんな疑問を抱きつつも、外の新鮮な空気を吸うべく馬車から外に出た。

 今のところは何も起こっていない。ただ単に俺がフラグを警戒しただけだったか?


「どうしたんだい、ルーファス? 何か警戒しているみたいだね」

「いえ、そんなことはありませんよ。それよりも、なんだか先を急いでいるような気がするんですけど?」

「そうかな? そんなこと……」


 そのとき、先の様子を見に行っていた斥候がただならぬ様子で戻ってきた。

 これ知ってる! フラグを回収したヤツだ! しかも、ベタなヤツ!


「報告します! この先で荷馬車が魔物らしきものに襲われています!」

「やはり現れたか! エラドリア王国の平和は俺たちが守る。剣を取れ、魔物から国民を守るんだ!」


 レナードお兄様のかけ声に、”オウ!”と返事が返ってくる。

 いやちょっと、”やはり”はまずいでしょ、やはりは。ほら、首をひねっている騎士がいるぞ。


 レナードお兄様が先を急いでいたのはこのためだったのか。きっと俺たちよりも先に出発した隊商が盗賊に襲われると予想していたのだ。

 いや、違うか。剣聖スキルのおかげで、この先で盗賊が待ち構えていることを知っていたのだろう。


 だが、出発前にそのことを騎士たちに話したらどうなるか。

 レナードお兄様はともかく、俺の安全を確保するために、出発は見送ることになっただろう。もしそうなれば、先を行く隊商がどうなっていたかは分からない。


 負傷者が出るだけならまだマシだが、死者が出ていたかもしれない。ひょっとすると、目撃者を出さないために全員を殺している可能性だってあるのだ。

 それなら宿場町でウワサしか流れていないことにもうなずける。

 死人に口なし。

 これはまずいぞ。急がねば。


「レナードお兄様、急いで向かいましょう!」

「もちろんだ。ただしルーファス、お前はダメだ」

「どうしてですか!」

「足が遅いし、乗る馬もない。どうやって俺たちについて来るつもりなんだ?」


 ぐぬぬ、確かにその通りである。俺が”うぬれ”と思っているうちに、馬に乗ったレナードお兄様たちが駆けていった。残されたのは数人の騎士だけである。


「第三王子殿下、レナード様に任せておけば大丈夫ですよ」

「それは分かっているけど、でも、時間があまりないかも」


 一刻を争うのだ。人の命がかかっているのだ。もちろん盗賊たちの命もかかっている。レナードお兄様はきっと、笑顔で盗賊たちを斬り捨てるはずだ。それもちょっと嫌だ。


『主、今こそ我の出番かと?』

「そうか、ラギオスの背中に乗ればいいんだ!」


 すでにポニーサイズになったラギオスにまたがると、バルトとレイ、騎士たちが止めるよりも早くラギオスが駆けだした。

 ラギオスは風のように木々の間を走っていく。そしてあっという間にレナードお兄様たちに追いついた。


「ちょ、おま、ルーファス!」


 バビュン。

 そしてあっという間にレナードお兄様たちを抜き去った。

 さすがはラギオス。足自慢の軍馬よりずっと速い!


 前方に倒れた荷馬車が見えてきた。そして大きなクマのような生き物が、逃げる人たちを今まさに斬ろうとしていた。

 斬ろうと? クマが剣を持つわけないだろ! やっぱりあれは盗賊だ!


「ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、モグラン!」

『監督、お呼びなんだな?』

「モグラン、あの汚い毛皮を身につけているやつらを全員、穴に埋めちゃって! あ、全部埋めちゃダメだからね!」

『任せるんだな!』


 モグランがそう言ったのと同時に、ドゴンというおなかに響く音と共に、前方に土煙が上がった。大丈夫? 信じてるからね、モグラン。

 そのまま倒れた荷馬車の元へと向かう。


「これは……」


 そこには盗賊と思われる人たちが、犬神家の一族のように足だけを出して地面に埋まっていた。

 うん、全部埋めるなとは言ったけど、できれば頭を出して欲しかったかな。これは急いで掘り出さないとまずいぞ。


 そんなことを思っているうちに、レナードお兄様たちが追いついた。そしてその異様な光景を見て絶句している。

 俺がやったんだけど、俺が求めていた解決方法とは違うからね?


「ルーファス?」


 笑顔がまぶしいレナードお兄様。これはまずい。


「お兄様、急いで掘り出して下さい。早くしないと死んじゃいます! この人たちから情報を引き出すつもりなんでしょう?」

「はぁ。負傷者の手当と、盗賊の捕縛をおこなえ! 一人も逃がすなよ! まあ、この状況では逃げられないか。どうしてこうなった」


 俺も言いたい。どうしてこうなった。やっぱりみんなの自主性に任せるのは危険かもしれない。だが、ラギオスを使わなかったところは評価してもらいたいところである。

 ラギオスに頼んでいたら、地中深くまで埋められていたな。そして圧力でペッチャンコだ。そうなると、掘り出さない方がよいだろう。


 俺ももちろん掘り出すのを手伝おうとしたが、危険だからダメだと断られた。騎士たちの中には土魔法を使える人もいるようなので問題はなさそうだけど。


 それならばと負傷者の手当を手伝う。まあ、こっちも手伝えることはないんだよね。医療の知識とか、そんなには持っていないし。これは騎士たちに任せた方がよさそうだ。

 もしかして、俺、全然役に立ってない!?


 その事実に愕然がくぜんとしていると、後ろから俺が乗っていた馬車がやってきた。俺の護衛を任された騎士たちの顔は蒼白そうはくである。

 なんか、ごめんなさい。

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