第71話 つまり、レベルアップしてるってこと

 そうと決まれば話は早い。まずは床に置いてある紙の山から片づけよう。その近くへみんなを集めた。


「書類の整理を手伝ってもらいたいんだけど、お願いできないかな?」

『もちろん構いませんよ。どのようにしましょうか?』


 ラギオスを先頭に、みんながそれを了承してくれた。みんなの体の大きさはバラバラだし、手の動きにも違いがある。そのためバランスよくチーム分けをしてから作業をしてもらった。


 魔法を使ったり、読み上げ役と分類役に分かれたりしながら頑張ってくれている。もちろん俺も頑張っている。こうしてみんなで作業をすることで、連携が取れるようになってくれるとうれしいな。


 ある程度の区分を分けることができたので、俺はトラちゃんと一緒に確認作業に入った。その間にも、みんなは仕分け作業を続けてくれている。

 そんなみんなの様子を見て、セルブスとララがため息をついていた。


「魔法生物が自ら動くとはこういうことなのですね」

「具体的な命令をしなくても、自分で考えて動くのですね」


 そのままみんなの様子を観察しているところを見ると、そこから何かを得ようとしているのだろうな。何か少しでもヒントになるようなことがあればいいのだが。

 始めからそれができる俺では、それをうまく教えることができないような気がする。


 そしてみんなと作業して分かったことがある。始めはおぼつかない動きをしていたのだが、だんだんと効率良く動くようになってきたのだ。それはすなわち、学習しているということである。


 つまり、魔法生物は使えば使うほどその性能が向上するということだ。呼び出すごとにリセットされる可能性も考えられるが、俺はその可能性はないと思っている。

 だって、みんなは俺のことだけでなく、これまでに起こったできごともちゃんと覚えているからね。


『あ~、頭を使ったから、甘いお菓子が食べたくなってきちゃったな~。プリンとか、プリンとか』

『あの黄色い姿をしたプリンは、プルンプルンしていてよかったですわね』


 どうやらティアとアクアはプリンが相当、気に入ったようである。ほらね、ちゃんと昨日食べたプリンのことも覚えている。これは間違いないな。魔法生物は知識を吸収して成長する!


 ……でもそうなると、知識を蓄えたティアがさらなるイタズラを仕掛けてくることにもなるのか。それはそれでちょっと考えものだぞ。なんとかせねば。


「それじゃ、一段落ついたら休憩にしよう。プリンなら小型氷室の中にたくさん入っているからね」


 そこで俺が取った作戦は、ティアの機嫌を損ねないことである。

 消極的な対応ではない。これはみんなと円滑な関係を築くために必要な儀式なのだ。そう思うことにした。


『主、プリンもいいですが、シュークリームもいいと思います』

「なるほど、ラギオスはシュークリーム派か。それじゃ、調理場へもらいに行くとしよう。きっと料理人たちが作ってくれているはずだからね」


 他のみんなの意見も聞く。ベアードとモグランとトラちゃんはプリンとシュークリームとみたらし団子が食べたいらしい。実に欲望に忠実である。テツジンは食べられないとのことだった。

 個性があるな。もしかして、オイルなら食べるのかな? でもそんなのないんだよね。どうしたものか。


 小型のカイエン、ピーちゃん、おチュンはプリン、マリモはみたらし団子が気に入ったようである。思ったよりも人気ないな、みたらし団子。でも俺は好きだよ。ちなみにセルブスはみたらし団子が好きなようである。


 三時のおやつの時間になったところでみんなと休憩を入れる。目録の分類はほぼ完了した。あとはそこから適当に見繕って調べるだけである。

 レイに頼んでシュークリームとみたらし団子を取りに行ってもらった。そして残ったメンバーでお茶の準備をする。


『ねえ、ダーリン、フルート公爵領ってどんなところなの?』

「ここからちょっと東に行った場所にあるんだよ。すぐ近くに大きな山があって、そこから鉱石を採取しているみたい。でも、今はその鉱脈が枯れつつあるみたいで、採れる量が減っているみたいなんだ」


 これまでは鉱脈からの豊富な鉱石によって潤っていたフルート公爵領だが、どうやらそれに頼りすぎていたようである。フルート公爵の勢いが落ちているのはそれが原因なのではないだろうか。


 でも待てよ。本当にそうなのだろうか。鉱脈がいつかは枯れることくらい分かっていたはずだ。それなのに、なんの手も打たないなんてことがあるのだろうか。有力な鉱脈がダメになりそうなら、その代わりになるような鉱脈を探せばいいだけのはずなのに。


『マ』

「ん? もしかして、テツジンは鉱石に興味があるの?」

『マ』


 そう言って、何かを口に運ぶ仕草をした。なるほど、テツジンは鉱石を食べたいのか。まさに蓼食う虫も好き好きだな。これはテツジンのためにも、フルート公爵領に行ったら良質な鉱石を手に入れないといけないな。


 第三王子の召喚した魔法生物が大好物にしている鉱石ともなれば、高値で取り引きされるようになるかもしれない。

 しかしそれでも根本的な解決にはならないか。なんとか鉱山業から別の事業へシフトするか、新たな鉱脈を発見するしか道はないのかもしれない。


 ギリアムお兄様も後押ししていることだろうし、それなら別の事業を始めるのが一番、有力かな? その宣伝のために俺たちが行くことになった。あり得そうな話だぞ。

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