第72話 つまり、部屋が狭かったってこと

 レイがシュークリームとみたらし団子をもらってきてくれた。レイから話を聞くと、かなりの数が作られていたそうである。

 どうやら国王陛下と料理長たちは本気で広めるつもりのようだ。まずは貴族たちに振る舞うつもりなのかな? きっと今ごろは新しいお菓子に舌鼓を打っていることだろう。


 そしてそれと同時に、”お菓子王子”の名称も広まっているかもしれない。

 うん、あきらめよう。なるようにしかならないさ。大きな川の流れには、身を任せるのが一番いい。


「みんなのおかげで、今日中には目録の確認が終わりそうだよ。ありがとう」

『お礼など不要です。主の命令とあれば、なんでもしますよ』

『おいしいプリンが食べられるものね。でも、シュークリームもいいわね』


 そう言いながらシュークリームをラギオスから分けてもらっているティア。もちろんプリンもおすそ分けしている。仲がいいよね、俺の呼び出した魔法生物たちは。


「セルブス、魔法生物の相性とかあるのかな?」

「聞いたことはありませんね。そもそも、命令がなければ動きませんから」

「なるほど、確かにそうか。その辺りはこれから調べていくしかないな」


 今のところ、俺が呼び出した魔法生物たちと、セルブスとララが召喚した魔法生物が争っているところは見たことがない。

 ケンカをしないのか、それとも、そもそも同族として見ていないのか。判断に困るところだな。


「ルーファス王子、先日はプリンをお土産にいただきまして、ありがとうございます。孫がとても喜んでおりました。いただいたマグカップも大切に扱わせていただいております」

「それならよかった。そうだ、セルブスの家でも作れるように、作り方を書いた紙をあげるよ。それがあれば、いつでも作れるからね」

「ありがとうございます」


 深々と頭を下げるセルブス。そんなに頭を下げなくてもいいのに、と思うのだが、相手はこの国の王子。やっぱり距離を感じてしまうな。仕方ないことだけど。

 だからこそ、みんなといい感じの距離感を見つけていかないといけないな。お互いの立場を尊重しながらね。


「私もギルド長からいただいたマグカップを大切に飾っていますよ。なんだか使うのがもったいなくって」

「遠慮なく使ってくれればいいのに。もし割れてしまっても、新しいのをプレゼントするからさ」


 俺の発言にギョッとするバルトとレイ。そうだよね、マグカップに金貨百枚の価値があることを知っているからね。そんな顔にもなるよね。

 でもそれは、セルブスとララの前では言えないのだ。取るに足りない、どこにでもある品だとして扱わなければ、きっと二人はそれを返しにくることだろう。それはなんか違うと思う。


 休憩を終えた俺たちは作業を再開した。甘い物を食べたおかげで、頭がしっかりと働くようになった。みんなも同じみたいで、やる気に満ちた顔をしてそれぞれの役割を果たしていた。


「ふう、これでよし。結局、ほとんどトラちゃんの中に入っていたな。ご先祖様の収集癖には驚きを隠せないよ」

『主、お疲れ様でした』

「ラギオスもお疲れ様。みんなもお疲れ様。ありがとう、助かったよ。みんながいなければ、あと何日かかっていたことやら」


 自分一人で目録を分類するだけでも大変だったはずだ。本当にありがたい。

 そしてこれだけの目録を持ってきたギリアムお兄様は、いつ、これだけの量の目録を作ったのだろうか。


 精神と時の部屋でもないと不可能だぞ。それとも、こんなこともあろうかと、あらかじめ準備していたのだろうか。あり得そうな気がするな。


『しかし若様、どうして急に終わらせようと思ったのですかな? 時間はかかってもよいというお話だったと記憶しておりますが』

「そうなんだけど、フルート公爵領に行く前には終わらせたいと思っていてね。仕事を残したままだと、なんだか落ち着かなくてさ。それに、召喚ギルドがいつまでも狭いままだと、色々と困るでしょ」


 主に召喚スキルの練習に対して。大型の魔法生物だっているのだ。それを呼び出す練習をするためにはそれなりに広い場所が必要だからね。

 それについさっきまでは一つしかない机の半分が目録の山に占拠されていたのだ。セルブスとララは何も言わなかったけど、俺はハッキリと言わせてもらうぞ。

 邪魔!


「そんなわけで、これから国王陛下のところへ報告に行ってくるよ。バルト、国王陛下の都合を聞いてきてほしい。あ、いやその前に、バルトとレイはちょっとこっちへきて」


 首をかしげながらこちらへ来る二人。本当はこれから国王陛下のところへ行くバルトだけでいいんだけど、バルトだけに耳打ちしたら、レイがいじけてしまうかもしれないからね。上に立つ者は大変なのだ。


「国王陛下に目録のほとんどすべてがあったと伝えてほしい。もしかすると、それだけの報告で十分かもしれないからね。国王陛下も暇じゃないだろうし」

「分かりました。そのようにお伝えしてきます」


 レイもしっかりとうなずいている。この話が秘密であることは認識してくれているようだ。

 セルブスとララには悪いけど、二人には内緒である。こんな危ない話は知らない方がいいに決まっている。


 俺にはバルトとレイ、それに、頼れる仲間たちがついている。だが、セルブスとララに四六時中、護衛をつけるわけにはいかないからね。トラちゃんの中身のことを知って一番危険なのは二人であることは間違いないだろう。

 もちろん俺も気をつけるに越したことはないけどね。

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