第57話 つまり、どう見ても冷蔵庫ってこと

「まさか、魔法生物が食事をするだなんて。これは大発見ですよ」

「私が呼び出した魔法生物も食事をするのでしょうか?」


 セルブスは興奮してしきりにラギオスたちを観察している。ララは動物への餌やりに興味があるのか、自分でも餌をあげたそうにみんなを見ていた。だがしかし、すでにララのマグカップの中は空だった。残念。


「セルブスとララが呼び出した魔法生物が食事をするのかは分からないね。どうも、俺が呼び出した魔法生物とは違うような気がする」

「私もそう思います。なんというか、私たちが呼び出した魔法生物には心がないような気がしますね」


 心がないか。二人が呼び出した魔法生物が自律していないように感じるのはそれが原因なのかもしれない。これは魔法生物に心を持たせる方法を模索する必要があるな。

 俺だけができる特殊能力ではないはずだ。だって、俺のスキルはみんなと同じなのだから。


「心を持たせる方法はきっとあるはずだよ。なぜか俺はそれが自然にできているみたいだけどね」

「なるほど、魔法生物に心を持たせるですか。これまで考えたことのなかったですね」

「それが原因なのかもしれない」

「心を持たせる、ですか。難しそうですね」


 ララのその考えも足を引っ張っている原因だろうな。魔法生物を呼び出すのにはイメージが最重要だ。そこに”それは難しい”という感情が入れば、そうなってしまう確率は非常に高くなる。


 それを解決する方法はただ一つ。自信を持つことだろう。できるできる、絶対できるってね。そのためには、やはり何度も魔法生物を召喚して自信をつけるしかない。


「たくさん練習しよう。そうすれば、必ずできるようになるよ。ここに成功した人がいるからね」

「そうですな。ルーファス王子は我々、召喚スキルを持つ者の希望ですからな」

「頑張ります」


 二人が俺の前にひざまずいた。

 いや、そこまでする必要はないと思うんだけど。みんなで仲良く頑張りましょうでいいじゃない。


 やっぱり第三王子という身分がみんなとの間に壁を作り出しているのだろうな。こればかりは俺の力ではどうすることもできない。

 そして時間が解決してくれるわけでもない。今はこの状況を受け入れるしかないか。


 バルトとレイにももっと身近な存在になってほしいのだが、やっぱりそれは難しいのかな?

 あれ? レイがマグカップをジッと見つめているぞ。


「レイ、どうしたの?」

「あっ、いえ、その、プリンがとてもおいしかったものですから、その……」

「もっと食べたいな、って思ってる?」

「そこまでは、その……」


 もう、レイも素直じゃないな。プリンの材料はまだ残っている。それならテツジンに頼んで、追加のプリンを作ってもらおう。俺ももう一個くらい食べたいからね。

 残ったプリンはフタをして冷蔵庫へ入れておこう。


「テツジン、追加のプリンを頼む」

『マッ!』

「ルーファス様」


 レイの声が震えている。

 ちょっとレイ、男前が台無しだぞ。ララが微妙な顔をして見ているじゃないか。イケメンたちの残念な面を見すぎて、そろそろララが人間不信になってしまうかもしれない。要注意だな。


「トラちゃん、冷蔵庫を出してほしい」

『えっと、そのような名前の魔道具はありませんね』

「おっと」


 どうやら冷蔵庫はないみたいだ。たぶん、名前が違うのだろう。それならえっと。


「容器の中が冷たくなる魔道具はないかな?」

『それならありますね。大きいのと小さいのがあります。どっちにしますか?』

「小さいのでお願い」


 トラちゃんの中から白色の箱が出て来た。どう見ても冷蔵庫なんだよなー。大きいのを頼んでいたら、一体、どうなっていたことやら。


「トラちゃん、この魔道具はなんという名前なの?」

『小型氷室ですね』

「なるほど。それじゃ大きいのを頼んだら、氷室が出て来たのか」

『そうですね』


 小さいのを頼んでいてよかった。もう少しでこの部屋いっぱいの氷室が出てくるところだった。さすがにそれは邪魔になる。


「バルト、レイ、この小型氷室をあそこの部屋の隅まで移動させてほしい」

「分かりました」


 バルトとレイが冷蔵庫ならぬ小型氷室を移動させている間に、テツジンが着々とプリンを生産していた。テツジンには俺の思いが届いているみたいで、先ほどのような人数分ではなく、可能な限りたくさんの量を生産している。


 トラちゃんの中に食器がたくさん入っていてよかった。いつもの食事では見かけないタイプの食器ばかりだったが、俺からすると見慣れた物ばかりだった。

 超古代文明時代って、俺が暮らしていた時代の地球とよく似てるような気がする。


 そうこうしているうちに、それなりの量のプリンが完成した。もちろん食べたい人に食べさせてあげる。

 セルブスは孫に食べさせてあげたいみたいだったので、持って帰らせることにした。


「ありがとうございます、ルーファス王子。孫もきっと喜びます」

「いいんだよ。セルブスにはいつもお世話になっているからね。そのマグカップはそのまま使ってもらっていいよ」

「なんというお心遣い。家宝のさせていただきます」


 深々と頭を下げるセルブス。なんだよ、家宝って。ただのマグカップだよ? トラちゃんに頼めばいくらでも出てくるような代物なのに。

 あ、ララもほしそうな顔をしているな。


「ララ、それからバルトとレイも。ほしいんだったら、そのマグカップを持って帰ってもいいからね」

「本当ですか!?」

「なんと……! ありがとうございます」

「家宝にします。ううっ……」


 やっぱりレイは家宝にするようである。なんとなく分かっていたけどね。それでいいのだろうか? いいんだろうな。たぶん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る