第58話 つまり、これが召喚スキルの真骨頂ってこと

 プリンを食べて満足したところで、召喚ギルドの仕事を再開する。みんなの脳にも糖分が行き渡ったのか、明るい表情でテキパキと仕事をこなしている。

 やっぱり甘いお菓子は偉大だな。俺のイメージを形にしてくれるテツジンがいることだし、テツジンにはこれからも食べたい物を作ってもらわなければいけないな。


 夕方になり、本日の仕事は終了した。セルブスとララに解散を告げてから、その足で料理長にお礼を言いに行くことにした。

 もちろん行くのは俺とバルトとレイだけである。これでまたモフモフたちを連れて行ったら、料理長からの心証は最悪になることだろう。


 もしそうなってしまったら、食材を分けてもらえなくなるかもしれない。それだけは絶対に避けなければいけないのである。

 調理場へたどり着いた。今は夕食の準備でとても忙しそうである。悪いな、と思いつつも、お礼だけは言っておきたい。


「料理長、さっきは食材をありがとう」

「第三王子殿下、とんでもございません。お役に立てて何よりです。ところで、あの食材は一体、何に使われたのですか?」


 さすがは料理長だ。どうやら食への探究心が刺激されたようである。それもそうだよね。どう考えても、クッキーやケーキを作るような食材の組み合わせじゃなかったからね。

 ここは料理長の心象をよくするためにも、教えておくことにしよう。


「プリンという名前のお菓子を作るのに使ったんだよ」

「プリン? それは一体、どのようなものなのでしょうか?」

「えっと、蒸したお菓子で、黄色い色をしていて、容器のそこには茶色のカラメルが入っていて、そんなお菓子だよ」


 腕を組んで大きく首をひねる料理長。どうやらお分かりいただけなかったようである。その後もレイと一緒に説明するが反応はイマイチだった。俺にプレゼン能力がもっとあればよかったのに。まことに残念である。


「なるほど、とても気になるお菓子ですな」


 それでも料理長は興味を示してくれた。蒸したお菓子というのがどのようなものなのか気になるのだろう。今までにないタイプのお菓子だからね。

 どうしたものか。作り方を見せてあげればすぐに分かってもらえると思うんだけど。


「邪魔にならないようなら、作って見せてあげることができるんだけど。俺じゃなくて、テツジンが、だけどね」

「テツジン?」

「そう。俺が召喚スキルを使って呼び出す魔法生物の名前だよ」


 首をひねりながらも周囲を素早く確認する料理長。どうやら召喚スキルがどのようなものなのか知らないようである。さっきもラギオスとカイエンを、ただの動物だと思っていたみたいだからね。そしてこの反応からすると、俺が召喚スキルを継承したことも知らないみたいだな。


 俺、一応、この国の第三王子なんだよ? もうちょっと興味を示してもらってもいいんだけど。確かにレナードお兄様の剣聖スキルに比べると地味かもしれないけどさ。


「あの場所があいております。あそこなら使ってもらっても問題ありません」


 料理長が調理場の隅っこを指差した。どうやら料理長は未知の料理に対する探究心に負けたようである。

 そうこなくっちゃ。そうでなければ王宮料理長なんてやっていられないだろう。


 その場所はちょっと型落ちの道具が置かれている調理台だった。しかし調理器具は一通りそろっているようなので何とかなりそうだ。

 さすがにオーブンはないが、鍋を使えばなんとかなるはずだ。


「それじゃ、この場所を借りるよ。ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、テツジン・シェフ!」

『マッ!』

「ぬおお!」


 料理長が突然現れたブリキのロボットに腰を抜かした。慌てて謝りつつも、テツジンの紹介をする。納得したのかは分からないが、テツジンに敵意がないことは理解してもらえたようだ。


「これが召喚スキルですか。初めて見ました。料理ができるゴーレムを呼び出せるとは、驚きですね」

「ふふふ、これが召喚スキルの真骨頂だよ」


 ドヤ顔で料理長を見るが、そんなことをしている場合ではなかった。早くしないと夕食の時間になってしまう。


「テツジン、プリンを一つ作ってほしい」

『マッ!』

「ちょっとゆっくりめに作ってね」

『マ?』


 そんなわけで、テツジンが丁寧に、弟子に料理を教えるようにプリンを作り始めた。それを真剣なまなざしで見つめる料理長。そして俺がテツジンを呼び出したことで注目を集めてしまったようである。遠巻きに料理人たちがこちらを見ながら、何かを紙に書いている。


 テツジンの調理は続く。下準備を終えたテツジンが料理長の反応を見ながら、陶器でできたカップにプリンの原液を入れる。それをあらかじめ湯を入れておいた、フタができる鍋に入れて湯煎にする。


「作り方は思ったよりも簡単そうですね。しかし、あまり見かけない調理方法ですな」


 その発想はなかった、とばかりにしきりに感心する料理長。蒸し料理はあるけど、鳥料理か、芋料理くらいでしか見たことがないような気がする。

 もしかすると、このプリンをきっかけにして、蒸し料理の幅が増えるかもしれないな。


 肉まんやあんまん、他にもおまんじゅうなんかが増えてくれるとうれしいな。でもその前に、あんこの作り方を料理長に教えておかなければなるまい。

 料理長たちの質問に、筆談で答えるテツジン。やっぱりしゃべれるようにしておけばよかった。今さらそう思っても後の祭りである。テツジン・シェフ・マーク・ツーには必ずおしゃべり機能を搭載しようと心に誓った。

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