第53話 つまり、察してくれたってこと

 扉の向こうから国王陛下が入ってきた。全員で立ってそれをお迎えする。


「お待ちしておりました」

「うむ。さっそくだが話を聞こう」


 どうやら忙しい合間を縫ってここへ来てくれたようだ。俺はなるべく国王陛下に時間を取らせないように、まずは山になっている目録について話した。


「これらすべてがギリアムお兄様からの目録になっております」

「……予想通りというか、予想以上というか。さすがに全部は見なくていいぞ。いくつか抜き取って調べてもらえばそれでいい」

「ありがとうございます。それで、ちょっと内密の話があるのですが……」


 あ、国王陛下の顔がめっちゃ嫌そうな顔になってる。俺だって本当は言いたくないよ? でもこんな大事なことは言うべきだろう。俺が国王陛下だったのなら自己判断でなかったことにするけど、今はただの子供なのだ。

 国王陛下を部屋の片隅へと連れて行き、コソコソと話す。


「昼食の席で古代人の作った魔法薬はほぼないと言いましたが、実はほとんどあります」

「……やっぱりか。よくあの場所で言わなかった。偉いぞ。言えばギリアムが大変なことになっていただろうからな」


 ふう、とため息をついたものの、優しい笑顔を浮かべてから頭をなでてくれた。えへへ。しかし、これだけの報告で終わらせるわけにはいかないのがつらいところである。


「国王陛下、ネクタルという魔法薬をご存じですか?」

「……知っている。それ以上は言わなくていいぞ」


 すべてを察してくれた国王陛下が俺を止めた。ですよね。俺もそう思います。俺は神妙な顔になるように配慮しながら、国王陛下の顔を見てうなずいた。


「これは私とルーファスだけの秘密だ。私が出せと言うまで絶対に表に出さないように」

「御意に」


 お互いにうなずき合う。これで密約は交わされた。俺は国王陛下から何か言われるまで、古代人の魔法薬については何も知らないことになるのだ。

 短期間に新たな悩みを抱え込んだ国王陛下は、入って来たときよりもほんの少しだけ笑顔を深くしてから帰っていった。


 どうやらさらに頑張って作り笑顔をしなければならなくなってしまったようだ。そのうちお母様にバレないか心配である。

 いや、お父様のことだ。夜にお母様に魔法薬のことを話して愚痴るのかもしれない。そしてそれを聞いたお母様は卒倒するのだろう。


 国王陛下が部屋から出て行ったところで、壁の花のようになっていたセルブスとララが復活した。

 復活はしたが、その顔色は悪い。今日の仕事はここまでかな? どうやら二人に負担がかかりすぎたようである。


「今日の仕事はここまでにしよう。あとは二人とも、好きなことをしていいよ」

「ありがとうございます。それでは私は書類の整理をすることにします」

「私は新しい魔法生物を召喚できるように練習します」


 うーん、思ってたのと違うが、二人ともやりたそうなのでよし。俺はどうしようかな? やっぱりモフモフタイムかな。

 そう思った俺はみんなを呼び出して、ソファーの上でみんなをモフることにした。そんな俺の様子を見て微妙な顔をしているバルトだったが、特に何も言ってくることはなかった。


 国王陛下が来たからね。俺の心身にも負担がかかっていると思ってくれたのかもしれない。バルトとレイも休めればいいんだけど、俺の護衛なんでそんなわけにもいかないんだよね。


『うーん、アクアはアクアでお尻がヒンヤリしていいわね。暑い日は特によさそうだわ』

「暑い日……ラギオスとベアードとモグランは毛を刈ってあげた方がいいのかな?」

『……それは構いませんが、毛を刈っても次に呼び出されたときは元に戻っていると思いますよ』

「確かにそうか。刈り取った毛を枕にしようと思ったけど、無理そうだね」

『無理ですね』


 フワフワの枕で寝ることができると思ったのに残念だ。いや、待てよ。


「フワフワの枕になる魔法生物を召喚すれば……」

『主、さすがにそれはやめておいた方が……』

「やっぱり?」


 さすがにそんなキワモノを呼び出したら、第三王子の沽券に関わるか。残念だな。そのうち、家型の魔法生物を呼び出そうかと思っていたけど、こっちもお蔵入りになりそうだ。

 移動できる家、いいと思うんだけどね。キャンピングカーみたいでさ。


 外でみんなと一緒に食べるバーベキュー、おいしいだろうなー。どうしてこの世界にはバーベキューをする習慣がないのか。それとも貴族はしないだけで、庶民の間では日常的にバーベキューが行われているのだろうか?

 気になった俺はさっそく料理長のところへと行くことにした。


「第三王子殿下! なぜこのような場所に?」

「ちょっと料理長に聞きたいんだけど、バーベキューってするの?」

「バーベキュー? なんでしょうか、それは」


 どうやらバーベキューという名前ではないみたいだな。俺はバーベキューがどんなものであるかを説明した。俺の説明に、料理長も納得してくれたようである。


「なるほど、金網で焼いた料理ですか。それならもちろんありますよ。ですが、外で焼いて食べることはできません」

「どうして?」

「危険だからですよ。毒でも入れられたら、大変なことになりますからね」


 屋外だから、毒を入れやすくなるのか。確かにバーベキューは色んな人が入り乱れているからね。悪意を持った人物からすれば、絶好の機会になるのは間違いないだろう。

 権力者は大変だな。外でバーベキューを楽しむことすらできないなんて。

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