第52話 つまり、目覚めたってこと
ギリアムお兄様から山のような目録が届いたことは、すでにバルトから国王陛下へと伝えてあるはずだ。それでもあえて国王陛下が聞いたのは、ギリアムお兄様への牽制なのだろう。
すでにレアな素材と温泉の研究で寝食、そして政務を忘れているみたいだからね。このまま国王になったら非常にまずいと判断したようだ。
その判断は正しいと思う。俺が国王陛下の立場なら、同じことをするだろう。
「その、それなりの量の目録が届きました。一部、調べてみたのですが、日用品や装飾関係はそれなりにあるみたいです。ですが、魔法薬に関してはあまりないみたいです」
ヒヤヒヤしながらウソをついた。本当は魔法薬もほぼすべてそろっていると思う。でもその中には出してはならない物がたくさんある。
それにこの場で”魔法薬もほぼあります”といえば、ギリアムお兄様の目に再び光が宿ることになるだろう。
そして待ち受けているのは、ギリアムお兄様のさらなる素振りである。見える、俺にもその光景が見えるよ。俺もついにニュータイプに目覚めてしまったか。
「そうか。魔法薬がないのは残念だが、古代人の日用品や装飾品も貴重だからな。ガッカリする必要はないぞ。午後から時間を作って召喚ギルドへと行く。私もギリアムが作った目録を見たいからな」
再びビクッとなるギリアムお兄様。どうやら海よりも深く反省しているようである。そろそろギリアムお兄様を許してあげてもいいのかもしれない。
魔法薬については、国王陛下が召喚ギルドへ来たときに事実を話しておこう。国王陛下だけなら大丈夫なはずだ。
「国王陛下、レナードお兄様から聞いていると思いますが、騎士団の大浴場に温泉を入れております。どのくらいの頻度で温泉を入れますか?」
「話は聞いているぞ。ずいぶんと評判がいいみたいだな。そうだな、ルーファスにもやることがあるだろうからな。三日に一度と、遠征から戻って来た日に温泉を入れるようにしてもらいたい」
「分かりました。お任せ下さい。それで、できれば城で働いている人たちにも入ってもらいたいと思っています。どうでしょうか?」
「そうだな……」
考えるようにアゴの下に手を置いた国王陛下。即答しないところを見ると、みんなに入ってもらうのはあまり許容できないようだ。
それもそうか。貴族を差し置いて庶民がスベスベお肌になっていたら、批判が出るか。
「悩ましいところではあるが、今はやめておいた方がいいだろう。城で働いている使用人たちがみんな美しくなっていたら、貴族たちから反感を買うことになるかもしれない」
「確かにその通りですね。浅はかな考えをしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いや、皆のことを考えるのはよいことだ。そのうちなんとかしたいところではある」
やっぱりそうか。封建社会ってなかなか庶民にまで恩恵が伝わらないので大変だよね。でもそれを壊してしまったら、俺たちの地位が危うくなる。とても難しいところである。
俺一人ならなんとでもなるけど、家族やたくさんの人たちを巻き込むことになるからね。
その後は午前中に召喚ギルドで行った仕事の話をしてから昼食の時間は終わった。国王陛下からは召喚スキルを習得するための教本を作る許可をもらっておいた。ただし、完成したらまずは国王陛下へ見せることが条件ではあったが。
どうやら俺がまた妙なことをしないか警戒しているようである。俺も国王陛下に見てもらえるなら安心できるし、望むところだな。
召喚ギルドへ戻ると、先ほどの話をセルブスとララにもする。
「国王陛下に教本の件については話してきたよ。特に問題はなさそうだった。あと、午後から国王陛下がこちらへ来るみたいだから、そのつもりでね」
「承知いたしました」
「わ、分かりました」
国王陛下が来ると聞いて、セルブスとララの顔が固くなった。
なんだか申し訳ないな。俺が召喚スキルを継承する前は、召喚ギルドに国王陛下が来ることなんてなかっただろうからね。俺が原因で二人に度重なる心労を与えてしまっているような気がする。
そんな様子の二人と一緒に午後からの作業を開始する。俺は教本の草案でも作っておくかな? 今はベアードが新しく加わったモグランとアクアの絵を描いているところだからね。
おっと、アクアは元の水まんじゅうの状態に戻しておかなければならないな。ウンディーネという魔法生物に変な誤解を与えることになってしまう。
「アクア、元の状態になってね」
『かしこまりました』
プルンと水まんじゅうの姿になったアクアを見て、セルブスとララが驚いている。まさか形状を変化させていたとは思わなかったようである。
「ウンディーネは自在に姿を変えることができるのですね」
「そうだね。さっきまでは俺が驚かないようにするための姿だったみたいだよ。俺はこの丸い姿も好きだけどね」
「なんだか不思議な魔法生物ですよね」
ララがアクアをプニプニしている。俺もそれにならってプニプニする。おおお、これは思った以上にところてん感があるな。ヒンヤリとしていて気持ちいい。マリモはほんのりと暖かかったからね。うまくすみ分けできているようだ。
そうしてそれぞれが作業をしていると、扉の向こうが騒がしくなってきた。どうやら国王陛下が到着したようだな。
そのざわめきに覚えがあったのか、セルブスとララの表情に緊張が走った。
なるべく手短に国王陛下との話を終わらせることにしよう。それが今の俺にできる、せめてものことである。
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