第3話 つまり、お飾りのギルド長ってこと
一礼をしてから使用人が去っていく。もちろん一人でこの場に残されたわけではない。俺の近くにはバルトとレイという名前の二人の護衛騎士がついているので大丈夫だ。
護衛騎士が近くにいるのだから、使用人に案内してもらわなくてもいいのではないか? と思うのだが、護衛騎士には護衛騎士の、使用人には使用人の役割があるらしい。
それを破ると、その人たちの仕事が無くなるそうである。それで生活している人がいるのなら、これ以上、あれこれ言うのはやめておこう。俺は第三王子。黙って規則に従っておけばよいのだ。
「バルト」
「ハッ!」
バルトが扉をノックした。王子ともなれば、扉のノックさえさせてもらえないのだ。不便過ぎる。
即座に扉が開いた。どうやら俺たちがここへ来ることをあらかじめ知っていて、扉の前で待機していたようである。そのくらい、扉が開くのが早かった。
おそらく俺が使用人に案内を頼んだ段階で、他の使用人が召喚ギルドに連絡を入れたのだろう。王子を待たせるわけにはいかないからね。ほんともうヤダ。俺は待つさ、いつまでも待つさ。扉が開いてくれるそのときまで。
「お待ちしておりました、ルーファス王子。元召喚ギルド長のセルブス・ティアンです。以後、よろしくお願いいたします」
そう言って、片眼鏡をかけた、オールバックのナイスミドルな男性が頭を下げた。ビシッとした臙脂色の燕尾服はどこか執事を彷彿とさせるものがある。名前も早口で言うと、”セバスチャン”になりそうだ。
気まずい。とっても気まずい。なぜなら俺は、つい先ほど彼の役職を奪ったばかりだからである。ここは一発ギャグでこの窮地を切り抜けるべきだろうか?
「ルーファスです。これからよろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。セルブスとお呼び下さい。その、敬語も必要ありませんので……」
そう言いながら上目づかいでチラチラとこちらの機嫌をうかがうように見るセバスチャンじゃなかったセルブス。相手が子供といえども、やっぱり王族から敬語で話されるのは負担になるか。
何も知らない人から見たら、不敬なことをしているようにしか見えないからね。しょうがないか。
「分かったよ、セルブス。ところで、召喚ギルドに副ギルド長はいるのかな?」
「いえ、おりません」
「そうか。それじゃ、召喚ギルド長として、セルブスを副ギルド長に任命する」
「ハッ! 確かに拝命いたしました」
深々と頭を下げるセルブス。これでよし。セルブスも予想していたのだろう。戸惑うことはなかった。
俺は召喚ギルドのお飾りでいい。トップに座るが命令はせず、である。人それを丸投げという。
「それじゃセルブス、中を案内してよ」
「かしこまりました」
先ほどよりもセルブスの表情が柔らかくなったように感じる。俺が変な命令を出すような王子じゃなかったから安心したのかな?
それもそうか。王族以外には、俺がどんな性格をしているのかなんて、ウワサくらいでしか聞いていないだろうからね。
召喚ギルドがあるのはそれほど大きな部屋ではなかった。小学校の教室くらいの大きさである。それでも三人しかいないので、とても広く感じる。
部屋の中には三人目のギルド職員がいた。
ショッキングピンクの髪を肩の辺りで切りそろえた、深紅の目を持つ女性である。顔つきは美人というよりかはかわいい系だな。年齢は十歳前後に見えるが、さすがに成人していると思う。
そうなると、十五歳以上になるな。とてもそうには見えない。この世界の住人って、みんな若作りなんだよね。お母様もしかり。不思議だな。魔力があるからなのかな?
その子は俺の姿を見ると、シュバッと音が鳴りそうなものすごい速さで立ち上がった。
明らかに緊張している。まさか俺が召喚スキルを継承するとは思わなかったのだろう。
なんといっても、超レアなスキルみたいだからね。
「ララ、でしゅ。よろしくお願いします」
かんだ。間違いなくかんだ。だがララは、何事もなかったかのように、再びものすごい速さで頭を下げた。
うーん、まずはララの緊張をほぐすところから始めないといけないな。そしてどうやら、俺が命令するまで頭を上げないつもりのようである。どうしよう。すごくやりにくいな。
「ララ、頭を上げていいよ。新しく召喚ギルド長になったルーファスだ。これからよろしくね。そして隣にいるのが、たった今、副ギルド長になったセルブスだ。ララは……俺の秘書にでもなってもらおうかな?」
軽く冗談を言うと、ようやく頭を上げてくれた。これで一歩前進……って、この子、おっぱいデカ! ロリ巨乳とか許されるのはマンガの中だけだよね? 大丈夫、この世界線?
動揺を隠すべく、まずはソファーに座り、他のみんなも座らせた。まずは召喚スキルがなんたるかを聞かないといけないからね。
「秘書……ですか?」
コテンと顔をかしげるララ。その髪がふんわりと流れた。結構なくせ毛だな。とても触り心地がよさそうだな……じゃなかった、冗談に聞こえなかったのかな? 真面目な女の子なのかもしれない。変なことを言うのはやめておこう。
「ああ、えっと、何か役職があった方がやる気が出るかなと思って。それよりも、召喚スキルがどんなスキルなのか教えてもらえないかな?」
そう言いながら二人の顔を交互に見た。ララは挙動不審になり、セルブスは一つうなずいた。
大丈夫かな、ララ。秘書にするのはまだやめておいた方がいいかもしれない。下手すると、体目的と思われるかもしれないし。
確かに乳尻太ももには目が行ったが、そんなつもりは微塵もないぞ。だって、七歳児だもん。
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