召喚スキルを継承したので、極めてみようと思います!

えながゆうき

第1話 つまり、第三王子ってこと

「おめでとうございます。あなたには異世界転生チケットが当たりました」

「は?」


 大学からの帰り道、いつものように近所の野良猫たちとキャッキャウフフしていると、突然、声をかけられた。

 モフモフは俺の心の癒やし。楽しいときも、うれしいときも、悲しいときも、つらいときも、モフモフたちはいつも優しく俺を包んでくれる。


 モフモフこそ至高。モフモフと戯れているときにこの世で一番生を感じる。そんな俺のモフモフタイムを邪魔するのは一体だれだ。しかも意味不明なことを言っているし。そんなものが当たるクジなんて引いた覚えはないぞ。


 顔をあげると、目の前には真っ白な服を着た、暗褐色の瞳の美少女が立っていた。そのつややかで美しい黒髪は腰の辺りまで伸びており、不思議なオーラを放っていた。

 年齢は高校生くらいだろうか? 他の人に見られるとまずい。かなりまずい。


「あの、ドッキリか何かですか?」

「いいえ、違います。これをどうぞ」


 そう言って、映画のチケットのようなものを渡された。そこにはしっかりと”異世界転生チケット”と書かれていた。しかも、右下辺りに爆発したような吹き出しで”特別優待”と書いてある。これは一体……?


 詳しく話を聞こうと思って顔をあげると、そこにはすでに黒髪の美少女の姿はなかった。

 何これ怖い。ホラーかよ! ホラー要素は苦手なんだけどなー。そう思いつつ、いつの間にかいなくなった野良猫たちにションボリとしながら家へと帰った。




 夢を見ていた。

 何を話しているのかも分からない声と一緒に、上下に上げ下げされる俺の体。その浮遊感は間違いなく本物で、とても夢だとは思えなかった。

 確か夢の中だと、痛みとかの感覚は感じないんだったよな。そうなると当然、浮遊感も感じるはずがないわけで……。


 これは夢じゃない、現実だ!

 だがしかし、声を出そうにも声が出ない。目もよく見えない。ついでに体もうまく動かない。


 もうダメだ、おしまいだ……。そう思っていたのだが、何か暖かいものに包まれるような感触があった。それがとっても柔らかくて気持ちよくて、俺の中に芽生えていた恐怖を完全に取り払ってくれた。そして同時に、俺に心地よい眠りを提供してくれたのであった。


 はい、そんなわけで、あのチケットに書いてあった通り、気がついたら転生してました。始めこそ、”そんなわけあるかー!”とムダなあがきをしていたのだが、数日たっても夢から全然目覚めないので色々とあきらめました。

 

 どう見ても赤子です。本当にありがとうございました。目はまだよく見えないけど、何度も口元に当てられてる突起物はおっぱいの先っちょだと思う。そして赤子は母乳を飲まなければ生きてはいけない。しょうがないよね。決してやましい行為ではないのだ。

 天国にいる父ちゃん、母ちゃん、すまねぇ。オラ異世界転生しちまっただぁ!


 それからあっという間に一年がたち、二年が過ぎた。さすがにこのころになると、自分の置かれている状況を理解できるようになった。

 俺の名前はルーファス。両親と二人の兄が俺のことをルーファスだったり、ルーちゃんだったりと呼んでいるみたいなので、ほぼ間違いないだろう。


 新しい言語を覚えるのは大変だろうな、と思っていたのだが、どうやら俺の頭のできは悪くはなかったようだ。スポンジが水を吸収するかのように、特に苦労することもなく言語を習得することができた。


 そしてなんと、俺はエラドリア王国の第三王子なのだ。あのチケットに書いてあった”特別優待”とはこのことだったのか。

 ……このことであって欲しい。これで何かチート能力でも与えられていたら、魔王討伐とかさせられそうで怖い。頼むからそうでありませんように。


 そんなことを思うのは、何を隠そうこの世界が剣と魔法の世界だからだ。

 文明自体は中世から近世ヨーロッパのようである。もちろん電化製品なんて便利なものはない。なんなら魔道具といった便利なものもない。でも魔法と魔法薬はある。この世界は独特の進化を遂げているようだ。


「ルーファス、今日はお庭をお散歩しましょうね~」

「あい!」


 俺は周囲に不審な目で見られないように、できる限り赤子を演じることにした。

 小説の中の主人公たちは小さいころから目立つような行動をとっているけど、よくそんな度胸があるよね。ボクにはとてもできない。


 そうして子供を演じる日々は続き、俺は七歳になった。王族としての教育もあって、今では立派な紳士である。まだ小さいけど。

 七歳の誕生日はこの世界の住人たちにとって特別な日だった。この日、七歳になった子供たちは”スキル継承の儀式”というものを行い、その身に何かしらのスキルを宿すのだ。当然のことながら、俺もその儀式をすることになる。ドキドキするね。


「緊張しているのかい? ルーファス」

「それはそうですよ。どんなスキルをもらえるのか、みんな気になると思います」


 儀式会場で俺の隣に座っている、次期国王のギリアムお兄様がそう言った。ちょっとからかったような口調は、俺の緊張をほぐそうとしているからなのだろう。

 月のように輝く、ギリアムお兄様の銀色の髪は肩までまっすぐに伸びており、サファイアブルーの瞳は楽しげである。


 俺の髪は耳にかからない程度の長さだが、カラーリングはギリアムお兄様とまったく同じである。まさしくどこからどう見ても兄弟に見えることだろう。

 それよりも、俺、そんなこわばった顔をしてた? ダメだな、顔をほぐさないと。


 顔をグニグニしていると、レナードお兄様がこちらへと向かってきた。騎士団に所属しているため、黄金のような金色の髪を短く刈り込んでいるが、目の色は俺たちと同じ、サファイアブルーである。目の色はそっくりだ。

 もしかしてそろそろ儀式が始まるのだろうか? なんだかさらに緊張してきたぞ。


「ギリアムお兄様、スキル継承の儀式が間もなく始まるみたいです。さあ、一緒に行こう、ルーファス」

「レナード、私も一緒に行くよ」


 兄二人から両方の手を握られた俺は、ロズウェル事件で連れて行かれる宇宙人のように連行されていった。

 お兄様たちとは十歳近く年齢が離れているんだよなー。もしかして俺が生まれたのは予定外だったのかな? いや、そんなことはないか。こんなに家族から愛されていることだし。

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