とある本の日常

レイ&オディン

売れ残りの本の日常

しかもう何年経ったであろうか。

ここの本屋が開店した時からわしはここにおるからもう10年は経っとるであろうの。

新しい本と本の間に挟まれ、いつもぎゅうぎゅう押されるしか仕事のないわしにとっては何の面白みのない退屈な日々じゃ。

よくここの本屋に来るおっさんどもが話しておるが、東京の満員電車っていうのがこういう感じなんじゃないかのう。

唯一の楽しみともすれば、この限りなく狭い視野から見る人々の人間観察かのう。

幸い、わしが置かれている棚はこの店の中で多くのジャンルの本棚を見渡せる場所にあるから、十年経っても飽きはしない。

おや、そうこう言っているうちに新しいお客さんが来たようじゃ。

ちと、観察してみるかのう。

どうやら、新しいお客は受験を控えた高校生のようじゃ。

何やら参考書を吟味しておる。

偉いのう。

わしは、教科書を読むのも苦労しておったなぁ。

いかんいかん、本になる前のわしを思い出しておった。

ここでは、売れ残りの本じゃが、前は結構ハンサムな男じゃったのだよ。

まあ、わしの前世の話はまた今度にして、話を戻そう。

しかし、あの客なんだか辛そうじゃのう。

おや、何かぶつぶつ言っておる。

何じゃ、ここからじゃ、聞こえづらいのう。

しょうがない、体を動かして、ちょっとだけで前に出すかのう。

よいしょ、よいしょっと。

うん、少し聞きやすくなった。

なになに、「私には無理なのかな。」じゃと!

諦めるでない。

まだ、始まっておらぬではないか!

意外とやってみるまで、結果は分からぬのだぞ!

うーん、こういうときはどうしたら良いかのう。

我らができることは限られておるしのう。

うーん、よし(๑•̀ㅂ•́)و✧

おいそこの笑えるエッセイ集とやら、お前の出番じゃぞ!

体を動かして自分を棚から落とせ!

え、嫌だ?

落としたら痛いから、落ちたくないだと。

じゃあ、私はここだー!みたいななんか気づいてもらう何かできんのか?

え、ジジイがうるさいだと!

おま、なんていうことをいいよる。

人助けではないか、張り切って何が悪い。

え、ほっとけじゃと!

あんまり構いすぎると、今はウザがられるじゃと!

自分で見つけて、解決するしかないからほっとけとな(゚д゚)!

あぁ、そんなこんないいよったら、あの子がもう、出て行ってしまったではないか。

あの子が元気になれるといいのう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とある本の日常 レイ&オディン @reikurosaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ