第15話 修哉の回想
音楽室の横にある準備室で、おれは一人楽譜を見ていた。今はテスト期間中、明日まで授業も部活も休みだ。一息つくために紅茶を入れる。
ここ最近、四葉の様子がおかしい。彼女とは去年の秋頃から付き合い始め、これまで順調な交際を続けているはずだった。しかし先週、職員室で会った日からどこか態度がそっけない。というより会うのを避けられている感じがする。何かを知られたのか、思い当たる節はいくつかある。
「まったく、やっと一人煩わしい奴を排除できたのにな」
おれはとある出来事のせいで、佐山という女に弱みを握られていた。およそ二年に渡り金や物など色々と要求されていた。妙にずる賢い奴だったがようやくその関係を切ることができた。
「あんな失態はもう二度とごめんだ」
三年前、
佐山を自宅へ初めて呼んだあの日、その現場を愛伊香に見られてしまった。彼女は普段の姿からは想像できないくらい、恐ろしくキレた。
「あら~先輩帰っちゃった。てか先生ってもしかして羽田先輩ともやってたの?」
佐山はニヤニヤしながら服を着ていた。
「……とりあえず佐山も帰りなさい」
佐山を帰らせた後、おれは先の事を考えていた。愛伊香のあの様子だと、おそらく親に相談するだろう。そうなると学校での処分は免れない。加えて未成年との淫行で罪に問われるだろう。今更ながら合鍵を彼女に渡していたことを後悔していた。
しかし、おれの不安は杞憂に終わった。次の日彼女は制服着て外出したまま行方不明となった。当然、吹奏楽部顧問のおれにも連絡が来た。
そしてその後、おれは彼女に会うことは二度となかった。
警察と学校は自殺の可能性も視野に入れ調査を始めた。緊急の職員会議が開かれる。
「高橋先生大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」
テニス部顧問の松下先生が心配そうにおれに話しかけた。
「ええ、ちょっとまだ信じられないもので……」
「そうですよねぇ、羽田さん吹奏楽部の生徒でしたよね。心中お察しします」
「ありがとうございます。いじめの可能性があるというのも僕にはどうも…… 悩みとかあるようには見えなかったので」
松下先生としばらく話していると校長と数人の刑事が会議室へとやってきた。そして今後の調査方針などの説明があった。翌日から学校での調査が始まった。
全校生徒への無記名アンケート。担任の教師はもちろん、部活の顧問でもあるおれも散々話を聞かれた。更におれと彼女が校内で性行為をしていたという目撃情報もあった。確実な証拠はなかったので、おれは最後までシラを切り通した。佐山にも固く口止めしておいた。
結局、羽田愛伊香は自殺ではなく事故死と断定された。それを聞いておれはほっと胸を撫で下ろした。しかし一つ懸念事項もあった。連絡手段として使っていたノートがどこにあるのかという事だ。一冊目と二冊目はおれが保管していたが、三冊目は彼女が持っていたはずだ。
だが数カ月経ってもなんの報告もなかった。家族にすら見つからないとこに隠していたのか、川に落ちた時にカバンに入れていたか。願わくば川の底にでも沈んでいてくれとおれは祈った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます