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俺はスゥと息を吸って、吐いた。
高嶺さんに励まされて以来、俺はTwitterで毎日セイゼイガンバルの応援ツイートをしている。
フォロワーもいるっぽい。俺の。
俺と同じ、セイゼイガンバルを好きな人がいる事が嬉しく思う。
そして今日は、ゼイガンバルのレースの日だ。
俺はもちろん、現地
おじさんも一緒だ。
今度、おじさんの推し馬のレースを一緒に見に行くことで約束を取り付けた。
「あ、おじさん!」
「あ?おじさんじゃねえが?」
「来てくれたんですね!」
「無視すんなって」
おじさんは、今日も一段とくたびれていた。
あと、いつもめちゃくちゃ厚着してる。なんで?
俺はスゥと息を吸って、喋った。
「今回も……草、でしたね……」
「芝な。草はアレだからな。芝な。」
そう、今回もセイゼイガンバルは芝で出走する。
前回あんな大敗を期したのに、だ。
俺が考えるに、セイゼイガンバルはダートの方が向いてると思う。
芝で勝てない馬がダートに行くことなんてザラだ。
だから、ダートに戻ったっていい筈。
何故、ゼイガンバル陣営は芝に拘るんだろう……?
「お前、今回は大丈夫か?」
「大丈夫です……お、おれ、だいじょうぶ……!」
「ダメそうだな」
きっと今回も勝てないだろう。
「おい、お前スボンのチャック開いてるぞ」
でも、それでも!
俺はセイゼイガンバルを応援したい。
勝てなくても、生きて欲しい。
「聞いてるか?」
俺たちは毅然とした態度で競馬場へ向かった……!
「…………」
「…………」
「……勝ったな」
「勝ちましたね……」
え、夢見てる?
俺は目を三度擦って、もう一度掲示板を見た。
一着 三番
三番は、セイゼイガンバルの出走番号だ。
え、ええ……?
セイゼイガンバルは、一馬身(約2.4m)の差をつけて勝った。
前回の出走はなんだったの……?
「なるほどな……」
「せ、先生!何かわかったんですか?」
「ああ、解けたぜ、この謎が……!」
おじさんは神妙な顔付きで、俺を見た。
ゴクリ。
俺は喉を鳴らして、言葉を待つ
「セイゼイガンバルは……浮き沈みの激しいタイプだ……!」
「お、おお……!」
そんな気がすることを言われた。
「陣営の考えが、ようやく読めた。セイゼイガンバルは芝でも戦える実力がある、が!その実、本馬の起伏が激しい……そういうことだ……!」
「お、おお〜!!」
調子の良い時は良いし、悪い時はとことん悪い。
そういうタイプってことだ。
つまり、セイゼイガンバルは、芝でも勝てる……!
そう考えた瞬間、俺は泣けてきた。
ちょっと涙が出てくる。
「め、めちゃくちゃ心配したのにぃ〜……」
「良かったな。これで、ある程度は安心できるだろ」
おじさんは俺の背中をバンバン叩く。
いや痛えんだわ
その日、俺はセイゼイガンバルのブロマイドを買って帰った。
調べたら非公式だった。
家でセイゼイガンバルについて調べる。
すると、ゼイガンバルの調教師の発言を見つけられた。
おじさんの言っていた通り、ゼイガンバルは勝敗の起伏の激しい馬らしい。
調子が良い悪いがハッキリしてるのだ。
本気を出せば勝てる……と言える。
が、実際にはセイゼイガンバルは常に一生懸命勝とうとしているのだそうだ。
結構アホな良い仔だから、ジョッキーの言うことを全部聞いてくれるらしい。
つまり、常に本気。
調子はセイゼイガンバルでは決められない。
敗因がスタミナとか、スピードとかと言いきれない。
強いのか弱いのか分かりにくい馬だった。
でも、でも
「良かった〜……弱いって訳じゃなかったんだな……」
俺はホッとして、ベッドに入った。
すぐに眠気がやってくる。
「ま、また勝ったぞ〜!!やった〜!!」
俺は小躍りしながら、冷蔵庫へ向かい、サンバの要領で開けた。
トゥットゥループシュ、だ。
キンキンに冷えたビール(発泡酒)を取り出し、飲む!
口内にシュワシュワが充満して、飲み干す。
「うめ〜〜!!」
限りなく美味かった。
なぜ、俺がこんなに喜んでいるのか。
理由は簡単。
セイゼイガンバルが、レースで勝利したからだ。
レースを制したぞ!
セイゼイガンバル!
俺は嬉しくなって、またニヨニヨ笑った。
今日のレースも先行からのレースだった。
逃げや先行はスピードが必要だ。
セイゼイガンバルはパワーのある馬だから、差しの方が向いていると言われている。
差しと追い込みはパワーが必須だからな。
スピードよりパワーの方が強いゼイガンバルが、なぜ、先行なのか。
理由を調べてみた。
普通に馬群が無理らしい。
めちゃくちゃな掛かり(ジョッキーのいうことを馬が聞かなくなること)になるんだそうだ。
意外と……繊細なんだなお前……
俺は気分良くビール(発泡酒)を呑みながら、スマホでTwitterを開く。
いつも通り、ゼイガンバルのツイートだ。
「『無我夢中で走り出した3000メートル。照りつける太陽に焼かれそうになる毎日。だけど、そこには君がいた。オーイエイ。君はオアシス』……よし!」
ツイートをして、俺は通知欄が目に入った。
「……なんか、リプライ来てない?」
俺のアカウントは、ただひたすらセイゼイガンバルへの想いを綴るだけの物だ。
そんなアカウントに、リプライが……?
開いてみる。
「『セイゼイガンバルGI出走おめ』……えっ?」
……えっ?
「じっ、GI!?」
腹からの声を出して、俺は飛び起きた。
無意識に高速な瞬きを繰り返す。
視界が見えん。
だけども、文字は変わらなかった。
競馬のレースには、グレードというものがある。
様々あるが、主にGIII、GII、GIが注目されやすい。
最も注目されやすくて、賞金額も多く、皆が目指すのがGIだ。
出走する為のお金も多く、勝ちを重ねてきた馬しか出られない。
真偽は不確かだが、セイゼイガンバルは、GIに出るらしい。
セイゼイガンバルが芝に行ってから、もう結構経つ。
あの敗北以来、ゼイガンバルは芝でも中々の成績を納めて、賞金も取っていた。
だが、勝てる時と勝てない時が激しいセイゼイガンバルに、GI出走が出来るのか……?
出るだけでも一握りで栄誉なんじゃないか……?
グレードの高いレースに出走する為には、それ相応に強くないとならない。
具体的には獲得賞金額が多くないと……
…………は?
「いや出るなんて一言も言われてねえ〜〜!!!何処にも書いてねえ〜〜!!サジェスト汚染されて勘違いされてるだけじゃねえかコレ!!」
集団で幻覚見てただけかよ!!
……まぁ、まだまだ発展途上のセイゼイガンバルに、GIなんてまた夢の夢だよな……
「……って事があったんですよ〜!おじさん、どう思います?」
「順当に行けば多分出れるぞ」
「ほわ〜〜〜!!」
「顔やば」
次回!晩成タイプの馬!
お楽しみに!
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